”ルーチンワーク” って何ですか?

前回のラグビーワールドカップで話題になったのが五郎丸選手のキック前の「ルーチンワーク」です。重要なプレーを行う前に一定の手順を踏んだ連続した動作を繰り返すことでゴールキックを成功させるというものです。トップクラスの選手は動作の「誤差」はほとんどないのですが、やはりプレッシャーのかかるプレイの前に不安を解消し安定したプレイを実現する行動をとるようです。
引退した大相撲の高見盛関の立ち合いに向かう前のルーチンワークを覚えている方も多いと思います。高見盛関は稽古場ではそんなに強くはないのだが、本場所では無類の集中力を発揮するのだそうで、確かに稽古場での申し合いのたびにあんな気合を入れることは現実的ではないと思われます。
ネットゲームの試合前のウォーミングアップは、「ラリー」「スマッシュ」「サーブ」など試合中に行われる動作をお互いに繰り返します。この際「あるプレーは必ず入れる!」という選手がいます。これが決まれば「これからの試合は大丈夫!」という縁起担ぎもあるようです。
「ルーチンワーク」はある意味でスポーツ心理的学な行動で、次の事態への不安解消やリハーサルといった意味が大きいのです。
毎日の練習で必ず「ルーチンワーク」を入れるということは、トレーニングの安定性を担保するものでもありますが、実はこれが「ウォーミングアップ」の「ステレオタイプ化」という問題を引き起こす可能性もあります。新たなプレーやスキルの獲得には「ルーチンワーク」が邪魔をする可能性もあるのです。(続く)

ウォーミングアップって必要なのですか?

 スポーツを始めるときに、通常はいきなり運動を行わずに「準備運動 ⇒ 主運動 ⇒ 整理運動」という手順を踏みます。
 準備運動の目的は、スポーツ外傷・障害の予防と主運動の効率的目的達成です。特に激しいトレーニングを行うときや特定の運動スキルの効率的獲得を目指すときには「準備運動」を工夫することの重要性が指摘されています。準備運動では、該当部位の可動域の拡大や筋温上昇などの全般的な準備だけではなく、運動形態の個別的準備も重要です。例えば、距離を目指す跳躍動作の練習実施時に、準備運動でうっかり高さを目指す跳躍運動を入れてしまうと、その後の本練習で何となく違和感を感じてしまう例もあります。また短助走での跳躍運動が全助走での跳躍運動に悪影響を与えることもあります。
 このような現象の背景には「運動の特異性」があることが指摘されています。旧ソ連の走高跳のコーチ・ジャチコフは、ジャンプ運動には様々な特異性があり「一般的なジャンプ力」というものは存在しない・・と指摘しています。速度やテンポ、リズムや強度はそれぞれのジャンプ動作で異なる・・ということです。
 ましてや球技などではポジションによって「運動の特異性」が異なります。フォワードとバックス、ゴールキーパーなどでは最終的にはそれぞれのポジションに応じた準備運動を入念に行わなくてはいけないのです。
 スタティック・ストレッチングだけでは準備運動にならない・・という指摘もこの「運動の特異性」を反映しているものと思われます。実際のプレーに類似した動きから構成されるブラジル体操などのバリスティック・ストレッチングから主要な動作のリハーサルを経て、当日の課題である主運動の実施に進んでゆくことが効率的なトレーニングには求められています(続く)。

脳の代償性適応?

障がい者アスリートに関わって、東京大学の中澤公孝先生(リハビリテーション科学)が運動機能をつかさどる脳の機能についてfMRI(磁気共鳴機能画像法)という手法を使って興味ある知見を発表しています。
パワーリフティング競技で健常者を上回る(305Kg以上)とされるイランのラーマン選手の運動にかかわる脳の活動領域について、下肢機能の懐失が上肢機能の発達を促したとする可能性を示唆しています。これは、走幅跳のレーム選手でも、踏切脚である右足を動かすときに、健常者であれば左半球の膝を動かすのに該当する運動野の活動があるのに対し、レーム選手では右半球も活発に活動していて、更に動作感覚にかかわると考えられている右側の二次体性感覚野にも活動がみられるるデータが示されています。これはリハビリテーションのプロセスの中で義足からの感覚入力を膝でいわば「翻訳」するような機能を獲得したのではないかと考えられています。
パラ・アーチェリーのマット・スタッツマン選手は生まれつき両腕がなく、右脚で弓を支えたスタイルで世界最長距離射的でギネスブックにも登録され、健常者ランキングでも全米8位になったこともあります。マット選手は、弓を構えた時の身体の動揺がほとんどなく、脳機能も右脚を動かす際、該当部位だけではなく左半球全体が活動しているデータが示されていました(2017、NHK放映)。
脳のこのような「代償性適応」は視覚障がい者や聴覚障がい者でも指摘されていることで私たちの身体機能の無限の可能性を示唆しているようです。
東京大学の多賀巌太郎先生は、「神経系」「身体系」「環境系」の三者の不断のトップダウンとボトムアップの反復によりシステムが完成されてゆくモデルを示し、個々の要因が全体を制限をする「スレイビング」から「シナジェティック」という,システムを構成する多数の要素が相互作用により全体としての秩序を生み出す協力現象の概念を示し,環境の不確実性に対する「グローバルエントレインメント(大域的引き込み)」による「脳と環境の強結合」の可能性を指摘しています。

義足は有利なのか?

 レーム選手の障がいクラスは膝下切断(T64)、日本の山本篤選手は障がいの程度が上の膝上切断(T63)で6m62の記録を持っています。両者の記録の差は1m86cm、ただT64クラスの歴代2位とも1m以上の差がありレーム選手の記録が突出していることを示しています。400mのピストリウス選手は膝下切断クラスで45秒07の世界記録を持ってますが、2016年リオ・パラリンピック400mでは上位3名がいずれも46秒台とレベルアップしてきています。
 外部からエネルギーを得ているわけではないので、義足を撓ませてエネルギーを蓄えるのは自身の体重と筋力とスキルとの「身体の使い方」でなされます。この点で「助力」とはいえないのですが「運動様式」が異なるか否かが論議の分かれるところだと思います。 車いす(Wheel Chair)でのフルマラソンは、障がいの軽いクラスではハインツ選手の1時間20分14秒が世界記録です。これは運動様式が全く異なりますので有利不利はありません。 自転車競技で小型モーターを隠して着装する「メカニカル・ドーピング」も「外部動力」使用の不正を規制したものです。
 また、走幅跳は「義足側」で踏切ますが、走高跳では「健足側」で日本の鈴木徹選手が2m00をクリアしています。これは助走スピードの変換方向に関係しているのかもしれませんので、単純に「義足が有利」とは言えないように思います。レーム選手は、7mジャンパーだったころは「よく頑張っているね」といわれていたのに、8mを超えて五輪出場が現実味を帯びてきたころから、代表枠の人数を含め「義足は有利ではないか?」と他のコーチから問題視されるようになったとコメントしていました。
 私自身は、同様の運動様式で障がい者と健常者がともに競い合うということに特に問題はないのだと思います。 車いすテニスは「ツーバウンド・ルール」がありますが、かつて国枝慎吾選手は関東選手権に通常のルールで参加していました・・勝った相手選手は”完全アウェー状態(?)”だったとコメントしていたそうですが・・。
 2012年のロンドン五輪でピストリウス選手が400mと1600mリレーに出場して「門戸」を開きました。私たちが「人々の多様性を尊重し共生してゆく社会」を目指すとき、障がい者とともに競い合うスポーツは「人間の尊厳とは何か?」を改めて問いかけてきているように思うのです。

義足使用とパフォーマンス

 2012年のロンドン大会から障がい者スポーツやパラリンピック関係の話題がマスコミにも多く登場するようになりました。2019年11月のドバイの世界陸上ではライブ中継も・・
 障がい者スポーツのレベルは高く、イラン・ラーマン選手の持つ重量挙パワーリフティングの世界記録310Kgは、健常者を上回っています(サポートウェアをつけない”ノー・ギア”タイプ)。陸上・走幅跳のドイツ・レーム選手の8m48も、世界選手権や五輪の記録を上回る驚異的なものです。
 障がい者と健常者が同じトップクラスの競技会で競い合うようになったのは、2008年北京五輪・陸上400m出場に向けに挑戦を開始した南ア・ピストリウス選手が最初です。問題は「義足が有利に働くか否か」で、当初世界陸連は選考対象の競技会出場を認めませんでした。その後「有利に作用するとは言えない」との裁定があり、北京五輪出場は参加標準記録に0.3秒届かなかったのですが、翌年の世界選手権やロンドン五輪では準決勝にまで進出しています。
 走幅跳のレーム選手は、ロンドンパラリンピックでは7m35でしたが、2015年ドーハの障がい者世界選手権では驚異的記録の8m40を跳躍しました。レーム選手は、2012年から同じ義足を使用しているので記録向上はトレーニングの成果であるとのコメントを残しています。ドイツ選手権では5年前から、レーム選手の記録が健常者の記録を上回っているのですが「ドイツ選手権者」としては表彰されず1~3位にレーム選手を加えた4名の表彰セレモニーの後、レーム選手に別途金メダルを授与するということになっているそうで、「メダルはいらないと言ったが、ドイツ陸上連盟がそうしたいと言うんだ。障害者が健常者と同じ距離を跳べることを示して、パラスポーツを宣伝したいだけなんだけど」とのレーム選手のコメント(日経新聞:2019年9月12日より)です。(続く)

”EMS”って何ですか

 EMS(Electro Muscle Stimulation)は、低周波電流で筋肉を刺激して収縮させる器具のことです。〇◎パルスとか✕▲ニクスとかいう名前の低周波肩こり治療器も同じ原理です。電気刺激で強制的に筋を収縮させるのですが、比較的遅い周期(周波数)で刺激を繰り返します。速い周波数の収縮では通常の筋収縮と同じで、自分の意志ではないので「痙攣」したような感じがします。
 EMSトレーニングとは、この低周波刺激を利用して強制的に筋収縮を起こさせます。筋が収縮するので当然筋内のエネルギー生産も必要となりますので、随意的収縮と同じような効果が得られる(本を読んでいてもトレーニングができる!)といううたい文句となります。
 ただし、スポーツ活動での筋収縮は、速筋系筋線維では1秒間に100回近い収縮(攣縮といいます)を行います(遅筋線維は30~40回程度)ので、「低周波刺激」では実際のスポーツ活動とは異なる収縮様式となってしまいます。負傷後のリハビリテーションや激しい運動後の筋の硬くなった「固縮」の改善には有効なのですが、スポーツトレーニング(筋トレ)としての効果には若干疑問が残り、フリーウェイトや実際の動きを利用した筋力トレーニングの方が効果的と考えられます。
 マッサージや静的ストレッチングもゆっくりとした伸展刺激を利用しますのでクーリングダウン効果はあるものの試合前の適応には慎重な対応が必要といわれています。また、アイシングも患部の冷却で炎症を緩和する目的で行われますが、冷却したリアクションで血行を促進させる効果もあるといわれています。しかし、いずれも「程度の問題」がありますので個人の状況に応じた専門家のアドバイスが必要です。

”筋膜リリース”って何ですか?

 時々テレビやネットで”筋膜リリース”が話題になります。
 整形外科や接骨院でも治療や施術をしてくれますし、専用の器具(でこぼこのあるパイプやマッサージ機)もネット上で市販されています。
 筋膜は、筋線維の集合体である全身のそれぞれの筋を束ねて区分している強靭なコラーゲンの「結合組織(サラミソーセージの外側のセロハンみたいなものをイメージしてください)」です。
 この筋膜が”シワシワ”したり隣の筋膜と癒着したようになっていると、筋の動きが悪くなるのでコリがでたり可動範囲が狭くなったりする・・ということで、その”シワシワ”や癒着を解消しようというのが治療の原理です。
 TVでは生理食塩水などの該当部位への注射が紹介されますが、生体侵襲なのでお医者さんしか措置ができません。そこで、ストレッチングや器具を使って様々な方法でトライすることとなります。
 毎日動かしている上腕二頭筋(力こぶ)などで筋膜の癒着が起きたという話はあまり聞きません。長時間のデスクワークやスマホの使用により同じ姿勢を続けていると肩(僧帽筋)や背中(広背筋)などで発症するようです。ラケットスポーツではあんなに激しく使用しても「肩こり」が起こらない・・筋肉痛は起こりますが・・のはよく動かしているからです。
 ただ、「痛みを感じる(痛覚)」というのは大変に複雑な現象で、損傷した部位を保護して回復をはかるために炎症や痛みが生じますが、局所麻酔や鎮痛剤などでは痛みをあまり感じなくなります(ただし運動感覚も”あやふや”になるので高度なテクニックは発揮できません)。また「こり」と「痛み」はメカニズムが異なり、その時点での可動範囲を超えて動かそうとすると痛みが生じます。
 ストレッチングは筋の緊張による短縮(こり:残存トーヌスといわれます)をゆっくりとした伸展で刺激を与えたり、拮抗筋を利用して反対方向に収縮させること(PNF:固有受容性神経筋促通法といいます)でこの短縮を改善する方法です。何らかの方法で「動かす」ことを持続して適度な刺激を与えていれば筋の残存トーヌスを軽減したり、筋膜の癒着を改善したりすることは可能なようです。特に可動範囲や筋緊張の「左右差」の改善は、スポーツ障害の予防にとって重要です(続く)。

裸足のランニングは?

 ケニア人ランナーの「フォアフット接地」に関連して、子どもの頃から裸足で走り回っているので「深部足底屈筋群」が発達してそのような走り方を可能としていることが指摘されています。この筋は足底の縦横アーチを形成して「バネ」を生み出します。一方ふくらはぎの「腓腹筋」は足首を伸ばすことで力を生み出しその場ジャンプやダッシュ力に貢献しますが、疾走速度が高いとエネルギーが大きくなるので貢献(関与)しにくくなってきます。これは、疾走速度が増大するにつれて、推進力を生み出す主役が「足首」⇒「膝」⇒「股関節」へと移ってゆくからです。
 ランニングシューズには「衝撃吸収性」と「反発性」という矛盾した性能が求められます。あまりに柔らかいとショックは緩衝してくれるのですが反発性がありません。ベアフット(裸足)シューズといわれるヒールもソールも薄いタイプでは、反発性はあるのですが衝撃吸収性がないため、「踵接地」は改善されるのですが脚へのショック(ストレス)が増加してランニング障害を誘発することがあります。
 また、シューズの重さが増えるとエネルギー消費量が増加し、長時間走っていると後半疲労感が生じます。かといってあまりにも軽いシューズ(かつては片足100g以下の製品もあった)では、接地衝撃の吸収(緩衝)にも筋力を使ってしまいます。ですからシューズメーカーは、この矛盾を解決しようと軽いが衝撃吸収性がありかつある程度の反発力のある素材(クッション材)の開発に力を入れています。
 裸足やベアフットシューズでのランニングは、踵接地をすると衝撃が大きいので自然とフォアフット(フラット)接地になるのですが、この衝撃の緩衝に使われる筋力発揮(膝関節の動きで前面の大腿四頭筋が対応する)をいかに軽減できるのかがポイントとなります。
 原理は実に簡単で「ストライド(歩幅)を狭くする」のです。ストライドが狭ければ滞空時間が短いので接地エネルギー衝撃は少なくなりますので緩衝エネルギーも軽減されます。また、接地位置もブレーキのかかる前方から、腰の下に近くなります。ただし、ストライドを狭くするとスピードが落ちますので回転数(ピッチ)を上げる必要性が出てきます。実は、”疾走速度=ストライド長✕ピッチ”という関係は、短距離スプリントであっても長距離ランニングであっても同様で、「ピッチアップ」こそがスピード持久力改善のポイントのようなのです。そして、接地衝撃の軽減が可能となるのでランニング障害の発症予防にも貢献する可能性があるのです。

”フォアフット接地”て何ですか?

 マラソン男子で日本記録を更新した大迫傑選手に関わって「フォアフット接地(着地)」が注目されています。これは、ケニア人ランナーの強さの秘密にかかわって、最大酸素摂取量という持久力の指標はほぼ同じなのに「ランニング効率(いわば燃費)」が大きく異なることとの関連から関心を集めている要因の一つです。リフトバレーという高地環境での生活、子どもの頃からの生活習慣、プロポーション(特に下腿の長さと細さ)、フォアフット接地に代表されるランニングスキル、ハングリー精神などなど様々な仮説が検討されていますが結論は得られていません。遺伝的要因から考えれば、同じケニア人(カレン人族)でも世界トップクラスの選手もいれば日本人より遅い選手もいます。このことはエチオピア人ランナーのオモロ族やジャマイカ人スプリンターでも同様です。
 ですから「速い選手」は何が異なっているのかを解明することが第一義的問題です。そして、ではその違いは「生活経験やトレーニングによって改善されるのか」あるいは「遺伝的に決定されていることなので不可能なのか」という研究が必要となってきます。
 「フォアフット接地」は、踵から接地する「リアフット接地」に比べて幾つかの優れた点があることが指摘されています。一つは、裸足に近い感覚で接地するので「接地衝撃が少ない」ということです。もう一つはリアフット接地では前方で接地して踵がブレーキをかけ、その減速した分を取り返そうとエネルギーを無駄遣いするので下腿の筋への負担が大きくなるのではないか、という点です。ただし、フォアフット接地といっても「つま先走り」ではなく、踵もほぼ同時に接地していますのでかつては「フラット接地」とも表現されていました。
 また、ケニア人ランナーの細くて長い下腿の形状は、エネルギー消費が少なく前方に振り出しても戻ってきやすい(より重心に近い位置に接地できる)という特徴も指摘されています。
 この下腿の形状だけはトレーニングでは変更しにくいのですが、意識的にランニング動作を変更することができれば改善効果は得られます。足首の屈曲や伸展による無駄な動きを制限すればふくらはぎの腓腹筋の肥大は起こりません。スタートダッシュのような足首の動きを日常的に制限することに努めれば、下腿の形状の変容が起こる可能性があるのです。ただし、瞬間的なダッシュ力は犠牲にしなくてはなりません。
 実は短距離スプリントでは、スタートダッシュでは足首や膝関節の伸展が必要なのですが、30m以降の最高スピード区間では、足首や膝関節を固定して使わない方がより効率的であることが解明されてきています。(続く)

”オノマトペ” って最近よく聞くのですが

 けん玉などで新しい技を覚えようとするときに、動きをまねながら「ズ~~ット、パ!」などというタイミングでやってみると上手くいくことがあります。
 このような擬音的・擬態的表現を「オノマトペ」といいますが、動作とかかわって「コツ」を伝える可能性が指摘されています。
 かつて日本の運動生理学の権威・猪飼道夫先生が、筋肉の働きを記録する筋電図の分析について「どうやるか(Spacing)」「どのくらいやるか(Grading)」「いつやるか(Timing)」という3次元的視点から考えることを提唱しました。フォーム(型)を覚えたらそれをいつ(適時性)、どの位(アクセント)やるのかを考えることで、極めれば「型より入りて型より出づる」という世阿弥の境地にもつながるのかもしれません。
 また、私たちが動作を起こすときの脳の運動野からの「運動司令」は、「関節角度」ではなく「関節トルク」という力の入れ方にかかわっていることも指摘されています(ATR:川人光男先生)。つまり「肘を180度から70度に曲げる」という指令ではなく「ギュン!と曲げるの」とか「ギュ~ン!と曲げる」とかいった速度と力に関係した成分との関係が強いとされています。
 また、骨や筋肉の解剖学的な特性には共通性とともに「個人差」と「経験差」もありますので、あのコーチよりこのコーチの表現や例えの方が自分には理解しやすい・・ということも起こります。「〇●のようにやってください」とい指示されても「〇●の経験」がなければ動きのイメージがつかめないのです。
 「せーの、ホイ」ではなく「せ―の、で、ホイ」のタイミングの方がやり易いということも起こりますので、実はオノマトペでの動作の表現も「共通性」と「個別性」を持っているようなのです。