私たちが運動に熟練してくると、どうやら結果を予想して動作パターンを選択して実行しているようです。
例えば雪の路面や登山道を走る時は、身体の移動状況や視覚情報など様々な入力情報から転倒しないように接地や体重移動を調整しているようです。
京都大学の乾敏郎先生と電気通信大学の坂口豊先生は「すべての脳機能は推論である」とするフリストン先生(英)の「自由エネルギー原理」を解説し、知覚や認知、運動といった機能が統一的に説明できることを指摘しました(乾敏郎・坂口豊、脳の大統一理論、岩波書店、2020年)。つまり「知覚」の仕組みは、中枢【信念】の予測信号と感覚受容器からの感覚信号とが「予測誤差信号」を生成し、それが中枢に対して【信念の更新】を要求し、実際の結果と予測との誤差【サプライズ】が小さくなるように働くシステムがあるようなのです。
理化学研究所の藤井直敬先生も「予想脳(Predicting Brains)」という概念で、自己をとりまく環境を逐次理解し、外界と整合性のある行動をとることにより「次に生ずる未来を常に予測して、絶えず流入してくる自動処理された外界環境情報と自己が予想した未来とを比較することが、脳の本質的な機能である」と指摘します(藤井直敬、予想脳、岩波書店、2005年)。
確かに、スキーで不整地斜面を滑ったりスラロームで難しいセッティングをクリアしたりする時には、予想と結果とを常に比較していると思うのです。その意味で、運動に「熟練する」ということはこのメカニズムが使えるようになっており、運動がうまく実施できないのは「経験知」が足りないからなのかもしれません。運動が上手くいかないのは「何が起こるかわからない・・!」という不安感が存在するためで、別の場面での経験知を適用して何とか乗り切るのもこのような脳のメカニズムと関連しているのかもしれません。