「運動司令」と「運動イメージ」と「ミラーニューロン」

 どうやら運動司令は「結果を予測して」発せられているようなのですが、では「何を手掛かり」にして予測しているのでしょうか?
 「予想脳」の藤井直敬先生も「能動的推論」の乾・坂口両先生も、外界からの絶え間ない感覚情報が重要で、視覚や筋感覚などの「感度調整」をして予測の精度を上げていることを指摘します(藤井直敬、予想脳、2005年:乾敏郎・坂口豊、脳の大統一理論、2020年)。まさに「注意・集中」をして状況を把握することが重要ということのようです。
 一方、実行する運動司令は各関節を「どの位動かすのか」という「関節トルク」(”グン”と蹴る”のか”ポン”と蹴るのかというイメージ)で発せられているようです(川人光男、運動軌道の形成、1986年)。
 では「運動を実行するイメージ」はどうなのでしょうか?
 リゾラッティ先生らの「ミラーニューロン」(リゾラッティとシニガリア、ミラーニューロン、2020年)では、「目前で他人が動く視覚情報」が自分の動きを誘発する「模倣」が背景にあるようで、その意味では「人の振り見てわが振り直せ」なのですが、人の振り見て生ずる「運動イメージ」の実体は何なのでしょうか?
 個人によって異なるとは思いますが、「一人称的イメージ」は「自分目線での自分の運動感覚」ですし「二人称的イメージ」は「あなたと私が一緒に動く運動感覚」ですし「三人称的イメージ」は「自分と関わりのない(わからない)運動感覚」があるように思います。世阿弥の有名な「離見の見」と「我見の見」もこれと関わっているように思われ、「我見の見」は自己満足の戒めとされていますが、「離見」と「我見」が揃っていて初めて熟達の境地に達するようにも思います。実はミラーニューロンには「自分が他人から真似されている」ことに反応する性質もあるようです。
 「ミラーニューロン」による「模倣」で想起される実際の運動イメージは「自分目線の一人称または二人称」であり撮影された外的映像のような「他人目線の三人称」ではないように思うのです。
 ただ、ヒトのミラーニューロンは「サルの猿真似」よりは少し高度な機能を持っているようで、ミラーリング時には休止していてその後活動する「スーパーミラーニューロン」がある可能性(階層性を持っている)も指摘されています(イアコボーニ、ミラーニューロンの発見、2009年)。「形をまね」「動作をまね」「目的をまね」て、「見よう見真似」で対応しているうちに「わがものに置き換わる」メカニズムはまだ良く分かっていないようです。 

SNSでもご購読できます。