最近「ファンクショナルトレーニング」や「コンテクスチュアルトレーニング」という用語をよく聞きます。
「ファンクショナルトレーニング」は個別の筋の収縮ではなく、ひと纏まりの筋-関節から構成される全身運動を基本とする方法で、スタビリティボールやラダーを用いたトレーニングが知られており、自体重を負荷として競技で必要とする体勢などスポーツの特異性を理解した上での様々なプログラムが紹介されています。(M.ボイル、ファンクショナルトレーニング、大修館書店、2007年)
「コンテクスチュアルトレーニング」の原題は ”Strength Training and Coordination”ですが、”Contextual”は「文脈上の前後関係」ですので、個々の要素による「還元主義」ではなく、スポーツにおける運動学的な「複雑系」を前提とし、ストレングスエクササイズからスポーツ動作への転移での運動感覚の同一性を指摘します。(F.ボッシュ、コンテクスチュアルトレーニングー運動学習・運動制御理論に基づくトレーニングとリハビリテーション-、大修館書店、2020年)
東京大学名誉教授の小林寛道先生は、動作の質を高める「認知動作型QOMトレーニング」による動作を学習するトレーニングマシンを開発し、有名な「スプリントトレーニングマシン」「アニマルウォーキングマシン」「車軸移動式パワーバイク」などを用いたトレーニングの有効性を示しています。(小林寛道、健康寿命を延ばす認知動作型QOMトレーニング、大修館書店、2013年)
いずれの方法も、個々の筋や限定的・要素的な動作ではなく、多関節をまたぐ全身的で一連の動作を課題としている点が特徴です。認知動作型QOMは、様々な動作の特徴を抽出したマシンを用います(近く:首都圏に「十坪ジム」というところがあれば体験できます)。ファンクショナルトレーニングもコンテクスチュアルトレーニングも、基本は自体重を負荷とした全身運動で、負荷としてダンベルやバーベルも用います。かつてハンマー投の室伏選手の行っていた様々な「不思議なトレーニング」も、スポーツ動作の特異性やそれによる過度で偏った身体の負担の軽減と改善をはかるという意味での理学療法士(PT)などのリハビリテーションとも通ずるものと思われます。
ボイル先生は「自動車でいえば馬力を高めるというよりも、燃費を改善するという考え方でトレーニングをとらえてみる」とし「トレーニングが理にかなっていることが重要であり、よってコーチは選手にとって理にかなったトレーニングを作成しなくてはならない」と大変印象的なコメントを残しています。