「エクササイズ」と「スポーツ」とは違うのですか?

 ハーバード大学の著名な進化生物学者・リーバーマン先生の最新刊「運動の神話」が出版されました(中里京子訳:早川書房、2022年)。現題は ”Exercised” です。
 「身体運動-骨格筋がエネルギーを使って生み出すあらゆる身体動作。エクササイズ-健康とフィットネスの維持・向上を目的として行われる、計画的で構造化された、反復を伴う自発的身体活動。エクササイズド-イライラさせられる、心配な、不安にさせられる、悩まされる。」との書き出しで始まり、「だが何より、運動は不安と混乱の元となった。なぜなら、運動が健康に良いことはわかっていても、十分かつ安全に楽しく運動することができない人が大部分だからだ。私たちは、運動に悩まされているのである。」と指摘しています。
 前作の「人体600万年史(塩原通緒訳:早川書房、2015年)」では、狩猟採集民として進化してきた私たちが、現代社会における身体活動の不足により ”ディスエボリューション” としての「非感染性のミスマッチ病(49の症例)」を引き起こしていることを指摘していました。
 米・メイヨークリニックのレヴァイン先生は「座りっぱなしが死を招く(GET UP!)」というセンセーショナルな書籍(鈴木素子訳:角川書店:2016年)で、13時間以上座っている生活習慣に対して、意図的なエクササイズ運動(EAT:運動性活動熱生産)以外でのNEAT(非運動性活動熱生産)の重要性(消費カロリーが500~2000Kcal程度増加する)を指摘しています。週末にテニスをやったりジムで週数回エクササイズを実施するだけでは十分な身体活動量を確保できないということのようです。
 「エクササイズ」は、メタボリックシンドロームやロコモティブシンドローム・フレイル(虚弱)などの改善のための有酸素能力向上や筋(力)の増加などを目的として定期的に計画・実行されます。ただ、エアロバイクやランニングベルトでの有酸素運動やバーベルやマシンによる筋力トレーニングなどが「楽しいかどうか」には個人差があるように思います。一方ストレッチングやヨガやティラピスなどはリラックス感が得られるので「快い」もののようです。
 どうやら、スポーツは 「楽しい」からやるようなのですが健康状態の改善にどの程度貢献しているのかは不明確です。一方エクササイズは「やらないと不健康になる!」という強迫観念があるので逆説的に「楽しくないのでやらなくなる」ようなのです。実は、文部科学省の「日本人の運動実施状況」に関するデータは、「階段上り」やウォーキングや筋トレも含めて「スポーツ実施」と同等に扱っているようで「楽しくやるスポーツ」と「いやいややるエクササイズ」を同等に評価しているようです。(続く)
 

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