2020年 4月 の投稿一覧

筋肉と免疫機能

 身体運動の実施が免疫システムを維持することに有効であることは多々指摘されています。今回のコロナウィルス感染予防での行動自粛が運動量の減少を招きメンタルストレスの増加と相まって免疫機能の低下をもたらすことが懸念されています。
 私たちの身体は細菌やウィルスの感染に対して免疫システムが作動します。この際リンパ球の活性化により細菌などを攻撃するのですが、筋肉を自己分解することによって「グルタミン」というタンパク質を生成しこのグルタミンがリンパ球を活性化することが指摘されています。40度の発熱が数日続いて「やつれる」のは実は筋肉の自己分解の結果なのです。ということは逆に筋肉量が少ないということはいざというときに免疫システムを活性化できない危険性があります。
 血液中の「アルブミン」の濃度低下(4mg/dl以下)が生存率を下げることも指摘されています。アルブミンは食品中の肉や魚などのタンパク質由来で筋肉や血管やリンパ球を作るうえで極めて重要です。実は高齢者の低栄養(タンパク質摂取不足)は、運動不足と相まって「加齢性筋萎縮症(サルコペニア)」を加速して免疫力を低下させます。
 身体運動を行ってバランスの良い栄養と休養を心がけ、筋肉量を維持するということはサルコペニアや生活不活発病による虚弱(フレイル)を予防するうえで極めて重要なのです。

運動の直接的効果は?

 身体運動がストレス反応を低減し、結果として免疫機能の低下を防ぐことで感染症を予防することはよく知られています。コロナウィルス感染を予防するための自宅待機や人との接触の制限はいわば拘束ストレスを増大させます。ネズミはこの拘束ストレスにより容易に胃潰瘍を発症することが知られていますが、言語機能を持ち社会的に交流することを本性とするヒトにとってはさらに問題は深刻です。散歩やジョギングなどを一人で実施するよりも複数人でおしゃべりをしながら実施することが好ましいのですが感染予防の観点からは悩ましいところです。
 では、運動の直接的効果はどうなのでしょうか?
 よく知られているのは運動による免疫システム中のナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性化です。「お笑いセラピー」でもNK細胞が増加することが確認されていますが、運動により一時的にNK細胞のレベルは低下しその後上昇すること、また唾液中の分泌型免疫グロブリン(SIgA)を上昇させて上気道(喉)感染症を軽減することも指摘されています。しかし高強度運動の長時間実施(マラソンやトライアスロンなど)は、逆に免疫機能を長期的に低下させ上気道感染症の発症率が数倍に跳ね上がるということも指摘されています。まさに「過ぎたるは及ばざるがごとし」なのですが問題は何をもって「過度」と判定するかなのです。
 実はストレス反応もトレーニングと同様に「強度」「継続時間」「頻度」と「過負荷(オーバーロード)」の原理原則があるようなのです。本来ストレス反応は「緊急反応」であり、ご先祖様たちがサバンナで危険動物に遭遇した時に身を守るための防衛反応です。アドレナリンを分泌して血糖値や心拍数をあげ、手足の皮膚の血管を収縮させ血液を固まらせやすくし、脳と筋肉をフル活動させ危険を回避するための重要な反応機序です。ストレス学説を最初に提唱したセリエ先生は「ユウストレス」と「ディストレス」という概念を示し、ストレス刺激が「警告反応期」と「抵抗期」を経て生体防御機能に破たんをきたした「疲憊期」に至って病的症状の発症をまねくことを指摘しています。これはまさに「オーバートレーニング状態」と同じメカニズムのようなのです。

運動で免疫力アップ??

 コロナウィルスによる新型肺炎の感染拡大での行動自粛が推奨される中で散歩やジョギングなどは厳しく制限されていません(自宅から1Km以内の範囲に限定されている例もありますが)。
 根拠の一つとされるのが「運動は免疫力を高めるから!」ということですが本当なのでしょうか?
 運動と免疫力の関係には多くの研究報告があり、一般的には「適度な運動は良いが過度な運動は免疫力を低下させる」と認識されています。ではそのメカニズムは何か?、というとよくわからないことが多いのです。
 免疫のシステムは、細菌やウィルスなどの生体侵入に対してまずマクロファージという細胞が攻撃して炎症反応を起こします。そしてその間に相手方の遺伝子情報を獲得してT細胞という免疫の中枢システム(HIV感染で破壊され免疫不全を引き起こすことで有名)に送ります。もしその相手がかつて感染されたものであれば、それに応じて獲得された抗体などを生産し相手を攻撃することで事なきを得ます。新型ウィルスが猛威を振るうのはこの免疫システムが過去のデータをもっていないためです。
 さらに最近の研究では、この免疫システムが過剰反応をして病原体以外の通常の細胞を攻撃すること、そしてその過剰反応を阻止する「Tレグ細胞(大阪大学・坂口先生)」の存在も指摘されています。このTレグシステムがないと免疫システムは「いつまでも」攻撃をやめないため様々な不都合(自己免疫性疾患など)を引き起こすことも指摘されています。今回のコロナウィルスによる肺炎でもこの過剰攻撃(サイトカインストーム)の可能性も指摘されています。
 運動が免疫力を高める可能性の一つが身体運動による「ストレス低減効果」です。過度のストレス反応(ストレスホルモンのコルチゾールなどの過剰分泌)が免疫システムを低下させることはよく知られており、2019年4月のブログでも指摘したように、適度な身体運動がストレス反応を低減させるので「結果として免疫力が維持される」可能性があるのです。(続く)