「出来合いのもの」で対応する・・転移?

 「模倣」ではなく「転移」と指摘される現象もあります。そもそも私たちの身体は骨や関節や筋肉はほぼ同じ(たまに骨や筋肉が退化している人もいる)ですので、プロポーションやパワーの違いはあるもののほぼ似たように動きます。
 例えばテニスをずっとやっていた人が初めてバドミントンをやってみる(私はそうでした)と、最初はテニスの「サービス」や「スマッシュ」の動作で対応します。バドミントンのラケットはテニスに比べて軽い(300gと80g)ので操作はし易いのですが「何か変?」です。そのうち「動作の変容(適応?)」が起こりバトミントンのラケットやシャトルの特性に合わせて何とか打てるようになります。現在のラケットは前後左右の「撓り」だけではなく「ねじれ」にも対応していますので「バックハンドのハイクリア」で瞬間的にラケットヘッドを「捻る」というテクニックも存在します。これはテニスラケットではできないテクニックなので「新たに習得」する必要があります。
 私が授業でバドミントン部員と試合をしていたら「先生のコースなんか変です!」と言われました。どうやらテニスの配球のセンスでバドミントンをやっていたようなのです。そういえば卓球選手(ペンホルダーの速攻タイプやシェイクハンドのカットマン)やソフトテニス選手のバドミントンも「なんか変!」でした。
 これは私の仮説の一つである「動作パターン浮動(MPD)」(運動野-小脳-視床-大脳基底核でのループ制御)とも関係しているのかもしれません。大脳の神経細胞(ニューロン)が160億個ほどであるのに対して小脳は690億個あるとされ多様な「動作補正」を支えています。そして「これだ!」という補正を大脳基底核が視床を介してONにする(脱抑制といいます)メカニズムです。更にその補正が「予測通りうまく行く(補修予測誤差ゼロ)」と「中脳」から報酬に関わるドーパミンが大脳基底核線条体に放出され「強化学習」が進んでゆくようです。
 当初は「出来合いのパーツ」を使って処理していくうちに「バージョンアップ」が進んでゆくようですが、では元々の「ピュアなスイング」はどうなってしまったのでしょうか。大学院の授業で、野球の投手とこの話をしていたら「スライダーを覚えたら今までのピュアなカーブが投げられなくなりました!」とのコメントがありました。

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