2018年 8月 の投稿一覧

マスターズ競技と年齢別記録

陸上競技や水泳競技のマスターズ競技では5歳ごとの年代区分があり、例えばM50クラスでは、50歳の方から54歳の方までが該当します。身体的能力は年齢とともに低下しますので当然50歳の方が「有利」です。しかし、陸上競技の年齢別記録を細かく見ていくと必ずしも節目の年(50歳、55歳、60歳など)に記録が樹立されているわけではありません。
運動生理学的には、速筋系筋線維のほうが遅筋系筋線維よりは加齢による機能低下が大きいとされていまので、短距離・跳躍系よりは長距離系の種目のほうが記録低下は緩やかなのではないか?・・と考えられています。しかし、最近の運動や健康に関わる遺伝子研究の進歩により、速筋系筋線維の加齢性萎縮が遅かったりトレーニングによる筋再生能力の高い遺伝子を持っている人がいたりして大きな個人差もあるようです。例えば30歳代でそれほど優れた記録ではなくとも、記録低下が緩やかであれば60歳代や70歳代でトップクラスのランキング入りができます。
マスターズ女子100mの世界記録は、別格・オッティ選手がW35で10秒74、W40で11秒09、W45で11秒34、W50で11秒67、と驚異的記録を樹立しています。オッティ選手はずっとトレーニングを継続していたことは知られているのですが、筋線維の遺伝子タイプ(ACTN3遺伝子など)は不明です。五輪や世界選手権でずっと金メダルが取れず、”ブロンズ・コレクター”といわれていましたが、58歳になる現在は大会には出場していない模様で、W55の100mのデータがありません。
またマスターズ選手では、トレーニング内容(強度×時間×頻度)とスポーツ障害との関係も指摘されていて、過度なトレーニングで運動器の損傷や炎症などをまねき「リタイア」してしまうケースもありますし、手術によりリハビリテーションを経て復帰する例もみられます。オーバートレーニングやスポーツ障害の発症を防ぐことは、スポーツ医科学の対象ですので、科学的で原則的なトレーニング実施はマスターズ選手ほど重要な要因となりますが、まだデータ例が少なくまた個人差も大きいのでよくわかっていない部分も多いのです。ただ、陸上競技や水泳競技では「記録」という比較的明確な指標があるので、自分の目標やトレーニング内容を設定しやすく「自己実現性」という達成感(こころの健康の指標)は大きいのかもしれません。

ベテラン選手活躍の背景は?

最近様々な競技でベテラン選手の活躍が話題となります。また、トップクラスの選手だけではなくマスターズ競技などでも日本記録や世界記録が更新され続けています。
一番の要因は「競技を続けられる環境」が整ったことだと思います。かつては高校や大学を卒業すると仕事との両立(特にチームスポーツなど)がなかなかできず、一部の選手を除いて「引退が当然」という雰囲気でしたし試合のできる条件も整っていませんでした(この点でスポーツ連盟のスポーツ祭典は先進的でした)。また、競技を続けている選手が少なかったのでトレーニングやコーチングのノウハウも蓄積されていませんでした。
もう一つの要因は、スポーツ医科学やトレーニング科学の進歩とその適用範囲の拡大があります。これはスポーツを実施する年齢層の拡大にも対応したものです。年齢を重ねれば「機能低下(退化)」は免れません。しかし、どの程度低下するのかは実はよく解っていなかったのです(やったことのある選手が少なかったのでデータがなかった)。身体的コンディションがある程度維持できていれば、ベテラン選手は経験が豊富ですので当然有利になります。
また、ベテランのトップアスリートは、監督・コーチやゲームアナリスト、トレーナーや管理栄養士といった「スタッフ集団」を組織しています。当然財政的裏付けがなくては集団を維持できません。国立スポーツ科学センタ(JISS)や国立トレーニングセンター(NTC)では、これらを競技団体(FS)と連携して支援していますが、一般のベテランスポーツマンでは支援を受けることができません。それでも、ある程度の経済的負担はありますが、医師やトレーナー、トレーニング施設の個人的利用ができるようになったこと(それなりのノウハウも蓄積されている)はかつては考えられなかったことです。
その一方で、ベテランになってもスポーツを実施できる人とそうでない人との「格差」の存在も深刻な問題です。「貧困」には、経済的・時間的・社会的・文化的の4つの「貧困」があることも指摘されています。本来この問題の解決こそが最も重要なことなのだとも思います。(続く)

脚が痙攣するのは何故ですか?

痙攣は、本人の意思と関係なく特定の筋肉が「勝手に収縮する」現象で、”しゃっくり”は横隔膜の痙攣です。
動作を引き起こすための通常の筋収縮は、複数の筋が私たちの意志で活動し、動作をやめようとすれば筋収縮はなくなります。ですから私たちの意志とかかわりなくある筋だけが収縮する痙攣は「不随意収縮」とよばれ止めることが困難なのです。

脳からの指令なしに筋が勝手に収縮する原因は筋の内部環境にあるようです。
例えば、熱中症のひとつ「熱痙攣」は、大量の発汗に対して水分のみを補給した結果起こる「低ナトリウム血症」です。私たちの神経-筋システムは「ナトリウム」と「カリウム」で調整されていますのでイオンバランスが崩れると勝手に筋収縮をはじめます。
また、過緊張である筋だけの収縮感度(「閾値」といいます)が高くなっていると、わずかな刺激でも収縮が起こり一緒に働く筋群とのバランスが取れなくなります。一流の跳躍選手が痙攣をおこして競技が続けられなくなるケースはこれが原因のようです。

痙攣が一定時間以上続くと「筋肉痛」を引き起こしたり「コリ」のような残存筋緊張となって動作に支障をきたします。ストレッチングやマッサージで緩和することとミネラルの摂取が必須です。あまりにも頻繁で症状がひどい場合には「漢方薬」を利用するケースもあるようです。特に夏場は、大量の発汗があり脱水症やミネラルバランスの崩れが起こりやすいので注意が必要です。整理運動のストレッチングを心がけてください。
ちなみにビールなどのお酒は「利尿作用」があり脱水症で寝ている時の痙攣を誘発する場合があります。何事もほどほどが肝腎(肝臓と腎臓はとても大切な働きをしています)のようです。