2018年 10月 の投稿一覧

禁止薬物は何ですか?

 

 禁止薬物リストは毎年毎年更新されています。インターネット検索を行うと「えっ!」と思われるものも該当します。「いたちごっこ」と例えられるように新たな薬物が次々と登場するからで、ある意味では「脱法ドラッグ」と同じような様相を呈しています。現在では「劇的効果を期待して使用する行為」自体がドーピング行為と認定されます。
 では「疲労回復」のための市販ドリンク剤はどうなのでしょうか、また「薬膳料理」などの食事メニューは大丈夫なのでしょうか?
 結論的に言うといわゆる「サプリメント」の15%には禁止薬物が含まれており特定の「漢方薬」にも禁止物質が含まれていると指摘されています。漢方薬系のかぜ薬のうっかり使用でドーピング違反を問われる選手もいます。チームに帯同する医師の重要な仕事が治療薬や摂取する食品のチェックなのだそうです。
 「禁止」の重要な根拠は「副作用」の存在です。1)興奮剤:正常な判断力を奪いアクシデントをまねく、2)麻薬性鎮痛剤:中毒症や依存症、3)蛋白同化ステロイド(筋肉増強剤):黄疸や肝機能障害、女性の男性化や男性の女性化、4)利尿剤( ドーピング痕跡の隠蔽):重度の脱水症、5)血液ドーピング(自分の血液の再注入で持久力増):感染症、6)βブロッカー(標的競技での心拍数抑制 ):心拍・血圧のトラブル、などなどです。先日カナダで「大麻」が合法化されましたがスポーツ競技ではドーピングとなります。
 効果的トレーニングのためには「運動」「栄養」「休養」のマネジメントが重要です。持久力トレーニング後の炭水化物や筋力トレーニング後のタンパク質摂取が重要であることはよく知られています。問題はトレーニングとその回復過程に入り込む通常の食品由来以外の「サプリメント」が「何者」なのかということとなります。
 ドーピングが不正行為である根拠のひとつは「副作用」とともに、ほぼ同じトレーニングを行ったアスリート間の「不公正性」にもあるものと思います。
 しかし、トレーニング環境も経済的基盤がなくては十分に構築できません。日本の五輪本番の切り札「マルチサポートハウス」は期間中だけで5億円以上の財政的支援が必要です。これは当然「違反」ではありませんが経済的に厳しい国のチームから見ると「何となくフェアでない!?」のかもしれないのです。ロシアのドーピングの背景には、2010年バンクーバー冬季五輪でのロシアチームの不振にプーチン大統領が怒って檄を飛ばし、競技団体が「最も安価な選手強化システム」として組織的ドーピングを行ったのではないか考えられています。
 

「ドーピング」って何ですか?

 オリンピックや世界選手権、パラリンピックなどでもいつも話題に上るのが「ドーピング違反で出場停止」「メダルはく奪」などです。ではその中身はいったい何なのでしょうか?
 実は、スポーツマンの栄養管理で多用されている「サプリメント」の中身の15%は禁止薬物に抵触するとの報告があります。また、カフェインを多量に含んだドリンク剤も一定量を超えると急性中毒症を発症しますが、カフェインも「禁止物質」なのです。
 ドーピングの歴史は19世紀までさかのぼりますし、漢方薬などの「強壮作用」も該当します。ヨーロッパでは、競走馬への興奮剤の使用や自転車競技選手の成績向上を目的とした使用が指摘され、1886年に自転車レースでの最初の死亡例が報告されています。1960年のローマ五輪・自転車100Km団体レースではデンマークチームが興奮剤・アンフェタミンの使用によりチーム4名のうち1名死亡、2名入院という事態が起こっています。また本来は疾病からの回復を促進するための薬剤の「筋肉増強剤」としての使用も1950年代から始まっています。
 「ドーピング」が何故不正行為なのかについて、最大の問題点はこの「副作用」による健康被害の深刻さです(NHK:汚れた金メダル、2015年放映)。
 「運動」「栄養」「休養」のサイクルはトレーニング効果を左右します。持久的トレーニング後は30分以内に「炭水化物(糖質)」を摂取することがスピード持久力のもと「筋グリコーゲン」の蓄積を促進します。また、筋トレ後の「たんぱく質(アミノ酸)」摂取は、筋線維の再生を進めます。有名な「インターバル速歩」後の牛乳摂取はこのメカニズムを利用した筋トレで、筋力増加に効果があることが実証されています(信州大学・能勢教授)。
 実は「筋肉増強剤」によるドーピングは、この効果的トレーニングのサイクルに一つだけ「間違い」を挿入しているのです。トレーニングを伴わない筋力増強剤単独では驚異的効果は得られないのです。また驚異的効果のある「サプリメント」と称する食品(薬品)のほとんどは禁止薬物を含有しているようです。
 現在は「禁止薬物リスト」に載っていない物質であっても「通常以上のトレーニング効果」を目的に使用した場合は「ドーピング」を判定されます。選手に帯同するトレーニングドクターの仕事の多くは、選手のケアと「体調不調時の健康管理(治療薬物の管理)」とのことです。(続く)