「最近年齢のせいかロードレースのタイムが低下してきたのだけれど・・」と心配されている方もいるのではないかと思います。トレーニングを継続していても、いわゆる「加齢」により様々な機能が低下してくるのは生理学的に自然な現象ですが、その程度は個人個人で異なるようです。ただマスターズ陸上競技の年齢別(5歳刻み)日本記録をみていくと高齢になってから始めた方を除いて短距離でも長距離でも跳躍でも投てきでも記録は低下していることがうかがえます(同じ方が複数の年齢別で記録を保持されている例もあります)。
問題は継続的に運動を実施していなかったりトレーニングを長期に中断されている場合の機能低下で、特に長時間にわたって運動を継続する「持久的能力(≒持久性)」の低下は、結果として肥満や高血圧、糖尿病などのいわゆる基礎疾患に繋がる重大な症状を引き起こします。10Km走は速くなくともよいのですがゆっくりでも20分以上運動を継続できないケースは注意が必要です。運動継続に必要な有酸素的なエネルギー生産能力の低下は呼吸循環系の機能低下をまねきます。つまり「持久力」は高くなくともよいのですが「持久性」が低下することは食事と休養の乱れ、運動不足などの生活習慣病のリスクを高めているといえます。
持久的な運動を継続すると私たちの体脂肪が遊離脂肪酸として分解され、また筋肉内のグリコーゲンという糖質も分解されて有酸素的なエネルギー源となります。心拍数も上昇し血液循環が活発になり長時間の運動実施を可能とします。この機能は「最大酸素摂取量」という1分間に体重1Kgあたりどのくらいの酸素を体内に取り込めるのかという指標で、これが低下するということは生活習慣病のリスクと大きくかかわっています。通常は30~40ml/kg/minですが20ml/kg/min以下ですと将来的に心疾患のリスクとの関連が指摘されています(ちなみに長距離選手では60~80ml/kg/minを越えます)。つまり長距離選手のような「持久力」は必要はないのですが運動を継続できる「持久性」は維持してゆくことが重要となります。
また「心拍ゆらぎ」といって、1分間60拍であっても1拍ごとが1.05秒や1.1秒、0.95秒や0.9秒と変動している方が心臓の自律神経への反応性が良いこと(交感神経系が働くと心拍間隔が短くなり副交感神経系が働くと心拍間隔が長くなる)も指摘されています。子どもや運動選手ではこの心拍ゆらぎが大きいことが知られており、心筋梗塞の患者さんや高齢者の方ではゆらぎが減少して心臓の反応性が低下していることが指摘されています。運動を始めると速やかに心拍数が上昇してゆらぎが減少し運動を終了すると速やかに心拍数が低下してゆらぎが回復する反応性も「持久性」を示す指標です。心拍数が高くゆらぎのない心臓はいわば「ポンコツエンジン」で、アクセルを踏んでも回転数が上がらずアクセルを離しても回転数が低下しないのです。