植田文也先生の「エコロジカル・アプローチ」では、スキルの指導における伝統的アプローチとしての「定型化」を否定します。そして「制約主導アプローチ」として、個人制約・タスク制約・環境制約の3種類の学習課題の有効性を指摘します。個人制約はスキルに影響を与える身体的能力、タスク制約は用具やボールサイズや重量(サッカーボールかフットサルボールかなど)、環境制約はサーフェス(土か芝か体育館かなど)やゲームスタイル(南米型か欧州型かなど)と関連して影響を与えます。サッカーの3対3で行われるスモールサイドゲームである「フニーニョ」などが「制約主導アプローチ」の一例として紹介されています。そしてブラジルにおける「ストリートサッカー」こそが自然な制約主導アプローチの典型であるとし、さらに「構造的練習」に対する「非構造的遊び」としてのストリートアクティビティである「パルクール(もともとはフランスでの歩兵訓練メソッドとして発案された)」も推奨しています。
これは「自己組織(化)」と「バリアビリティ」に関わる運動経過の獲得は「融通の利かない定型化」としてではなく神経系-身体系-環境系のトップダウンとボトムアップの反復という枠組みの中でダイナミックに形成されることを意味します。私の提唱する「ダイナミックステレオタイプ(力動的常同性)」のモデルも、運動野での動作のプロトタイプ(原型)が小脳の690億個のニューロンにより多様な補正を受け大脳基底核の働きにより「最適な補正」を選択-実現するとするもので、最適な補正を「生起」させる要因は「外的環境の変動」と「三つのエネルギー供給系のモード変容」によることを指摘しています。つまり運動経過の中での「最適解」は一つではないということとなり、リゾラッティ先生のミラーニューロンによる「模倣」やフリストン先生の「能動的推論」という、結果と経過を常に予想し修正するプロセスである「知覚-運動カップリング」が存在するようなのです。