2023年 9月 の投稿一覧

エコロジカル・アプローチ?

 サッーカーコーチ・植田文也さんの「エコロジカル・アプローチ」(ソル・メディア、2023年)が話題になっています。「新しい学習理論と実践」という内容は、ポルトガルのポルト大学で出会った考え方がルーツにあるようです。
 キーワードとしては「制約主導アプローチ」で、「個人制約(構造的と機能的)」「タスク制約」「環境制約(物理的と社会文化的)」という3つのカテゴリーから「知覚-運動カップリング」を改善しようとするものです。そして(1)代表性、(2)タスク単純化、(3)機能的バリアビリティ、(4)制約操作、(5)注意のフォーカス、の5つのプリンシプルを指摘します。分かりやすいものが第4章の「ストリートサッカーは自然な制約主導アプローチである」の内容です。アスファルトや土、芝などのサーフェスの制約、ボールの大きさや重量や弾性、3対3や5対5などのプレーヤー数、参加者の年齢や性別、コートサイズやゴールの形状など様々な「制約」を含むものがストリートサッカーであり、そのなかで子どもたちは様々な身体操作やスキルを獲得してゆく(『型』にはめ込もうとする指導システムでは獲得されない)と指摘します。これはサッカーとフットサルとの関係(”ドナースポーツ”という概念)とも関連するようです。
 実は、日本の「学校体育研究同志会」の優れた授業実践の一つに3対2の「じゃまじゃまサッカー」という教材があります。コート中央に「守備専用のじゃまゾーン」があり、そこを3名で連携して突破することで「シュートゾーン」に入れるという教材です。またホッケー教材ではゴールを「ゲート型」にして『縦方向』にセットすると「横方向からの連携してのシュート」が多用されるようになったとの実践報告もあります。また小学生用のバレーボールボールには「4号軽量球」がありますしミニサッカーゲームでは「フットサル用ボール」を使用することでゲーム展開が変わってくることも指摘されています。
 視覚情報に関わる「アフォーダンス理論」や東大の多賀厳太郎先生の「神経系-身体系-環境系」との不断のトップダウンとボトムアップの反復が「シナジェティックという新秩序を生み出す」という考え方とも通ずるものがあるように思います。関心ある方はご一読をお勧めいたします。

「全力」と「全速」・・?

 「〇✖選手 ”フルスイング” で逆転タイムリースリーベース・・」という表現があります。では、この” フル” は「何がフル」だったのでしょうか?「打った打球速度が最速だったのか?」「バットスイングの速度が最速だった(で、たままたまボールに当たった)のか?」「力の入れ方が”全力”だったのか?」・・と考えるとよくわからないのです。
 実は筋力トレーニングには「RM(繰り返し挙上できる最大回数)」というガイドラインがあり「最大筋力発揮時」は1RMとされています。ところが「最大筋力」を発揮しようとすると「他の筋収縮(付随する余分な筋活動)」を誘発して「速度低下」をまねくケースがあるのでトレーニング課題としては3RM(3回繰返せる負荷量)の方が効果的ではないかと考えられています。
 私たちは「拮抗筋群」という「屈曲」と「伸展」を交互に繰り返す筋群で効率的な運動遂行を支えています。これは「伸張反射」や「立直り反射」といった生理学的なメカニズムを利用して効率的な運動を実現します。そして走幅跳や走高跳などの踏切動作では「屈曲」と「伸展」の筋群を同時に収縮させて「関節を固定」して”バネ”を生み出します。これは1960年代から「鎖と棒」の理論として理解されてきました。
 ところがこの筋収縮の「拮抗性」と「同時性」の関係が破綻するとパフォーマンスが低下することが指摘されています。股関節大腿前面・大腿四頭筋の「伸筋」と「屈筋」の大腿二頭筋(ハムストリングス)の収縮のタイミングが合わないと「失速」するようなのです(NHKミラクルボディ:2008年放映)。番組では2007年大阪での世界陸上100m決勝で、当時世界最速のアサファ・パウエル選手がタイソン・ゲイ選手追いつかれ60m以降失速して逆転されたのが、過剰な意識状態が筋の「共縮」を引き起こしたのではないかと推測しています。実はパウエル選手はその13日後のイタリアの小さな大会の予選で9秒74という驚異的世界新記録を出しているので「フィジカル」の問題ではなく「メンタル」の問題ではないか(周りを気にせずトンネルの中を走っているようないわゆる”ゾーン状態”が必要?)と結論付けていました。
 つまり過剰な「全力」では円滑な運動スキルを阻害するので「全速」は出せないのではないのか、それ故に「全速」を出せる練習課題こそが重要だということとなります。