「全力」と「全速」・・?

 「〇✖選手 ”フルスイング” で逆転タイムリースリーベース・・」という表現があります。では、この” フル” は「何がフル」だったのでしょうか?「打った打球速度が最速だったのか?」「バットスイングの速度が最速だった(で、たままたまボールに当たった)のか?」「力の入れ方が”全力”だったのか?」・・と考えるとよくわからないのです。
 実は筋力トレーニングには「RM(繰り返し挙上できる最大回数)」というガイドラインがあり「最大筋力発揮時」は1RMとされています。ところが「最大筋力」を発揮しようとすると「他の筋収縮(付随する余分な筋活動)」を誘発して「速度低下」をまねくケースがあるのでトレーニング課題としては3RM(3回繰返せる負荷量)の方が効果的ではないかと考えられています。
 私たちは「拮抗筋群」という「屈曲」と「伸展」を交互に繰り返す筋群で効率的な運動遂行を支えています。これは「伸張反射」や「立直り反射」といった生理学的なメカニズムを利用して効率的な運動を実現します。そして走幅跳や走高跳などの踏切動作では「屈曲」と「伸展」の筋群を同時に収縮させて「関節を固定」して”バネ”を生み出します。これは1960年代から「鎖と棒」の理論として理解されてきました。
 ところがこの筋収縮の「拮抗性」と「同時性」の関係が破綻するとパフォーマンスが低下することが指摘されています。股関節大腿前面・大腿四頭筋の「伸筋」と「屈筋」の大腿二頭筋(ハムストリングス)の収縮のタイミングが合わないと「失速」するようなのです(NHKミラクルボディ:2008年放映)。番組では2007年大阪での世界陸上100m決勝で、当時世界最速のアサファ・パウエル選手がタイソン・ゲイ選手追いつかれ60m以降失速して逆転されたのが、過剰な意識状態が筋の「共縮」を引き起こしたのではないかと推測しています。実はパウエル選手はその13日後のイタリアの小さな大会の予選で9秒74という驚異的世界新記録を出しているので「フィジカル」の問題ではなく「メンタル」の問題ではないか(周りを気にせずトンネルの中を走っているようないわゆる”ゾーン状態”が必要?)と結論付けていました。
 つまり過剰な「全力」では円滑な運動スキルを阻害するので「全速」は出せないのではないのか、それ故に「全速」を出せる練習課題こそが重要だということとなります。

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