「戦術的ピリオダイゼイション」って何ですか?

サッカーの関連サイトで、最新の理論としての「戦術的ピリオダイゼイション」が話題となっています。サッカーコーチの植田文也先生は「戦術的ピリオダイゼイション」の構成要因について「自己組織化」「カオス」「フラクタル」「バリアビリティ」を指摘します(植田文也、エコロジカル・アプローチ、ソル・メディア、2023年)。
「自己組織」自体は、東大の多賀厳太郎先生の指摘する「神経系」「身体系」「環境系」のトップダウンとボトムアップの反復により個々の要素を統合した「新秩序(グローバルエントレインメント)」が生ずるとの「自己組織」理論(多賀厳太郎、脳と身体の動的デザイン 運動・知覚の非線形力学と発達、金子書房、2002年)なのですが、ボールゲームではプレーヤー集団がゲーム展開に応じて個々人ではなく集団としての適切な戦術や戦略を選択・実行することを指すようです(”グローカル”と表現されています)。「カオス」はオフェンスやディフェンスが「リセット」され、「フラクタル」は一定の戦術に向かって徐々にプレーが集約されていく(スローテンポから始まりテンポを徐々に上げてゆく)状態のようです。「フラクタル」は本来 ”1/fゆらぎ” といって一定の傾向で進むのではなく加速度的に傾向が強まってゆくことを指しますので「ロングパス」⇒「ミドルパス」⇒「ショートパス」⇒「ワンツーリターン」⇒「シュート」とテンポを上げてゆくことを指しているようで、上手くいかなければ再度「カオス」にリセットするようです。「バリアビリティ」はいわば「結果の正確性」を実現するための「経過の冗長性」と解釈(山崎)することができます。植田先生はロシアの著名な生理学者・ベルンシュテインの ”鍛冶屋のハンマータスク” を引用し「繰り返しのない繰り返し」と表現し、NTTコミュニケーションの柏野牧夫先生は、桑田真澄投手の外角低めへの正確な投球について、頭の位置やボールリリースの位置が最大20cmずれて実現されていることを指摘します(伊藤亜紗、体はゆく できるを科学する<テクノロジー×身体>、文藝春秋、2022年)。
_私の解釈ではいずれも「個人的運動」レベルでの「結果の予測」を伴った変容と考えているのですが、「対人的運動」での1対1でも、プレーを続けてゆく中でフェイントやフェイクを用いての1対0.5を経て1対0でポイントを得ることが可能となります。「集団的運動」であれば ”スクリーンプレー” などに典型的な3対3から3対2.5を経て3対2(=1対0を実現)でポイントを得ることを可能とします。そのプロセスの中で「自己組織化」と「バリアビリティ」が「カオス」と「フラクタル」というゲームの様相を経て実現されているようなのです。(続く)

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