2018年 4月 の投稿一覧

スポーツマンの栄養摂取は?

スポーツを行う人の栄養摂取上の課題は何でしょうか?

パフォーマンスの向上にかかわっては「増量」と「維持」と「減量」が重要となりますが、原則は「筋肉量の維持」だと思います。
増量では「体脂肪量を増やさず筋量を増やす」こと、減量では「筋量を減らさず体脂肪量を減らす」ということです。
運動選手が「体重を落とさなくては」と思い込み「低糖質ダイエット」を行うと、スピード持久力のもとである筋グリコーゲンが低下してすばやく動き続けられなくなります。また、筋や赤血球を分解してエネルギーを補うようになってしまい、筋力低下や貧血をまねき「本末転倒」の結果となります。体脂肪(特に内臓脂肪)の減量のためには「低強度の有酸素運動(ゆっくりとした持久的運動)」が有効で、脂肪と糖質をバランスよく消費させることが重要といわれています。

競技によっては、体脂肪を含めた体重がプラス要因になるケースもありますが、重くなった身体をスピーディーに動かすためには筋力が必要です。一部のお相撲さんのように、筋力に見合わない体脂肪量の増加は、関節や靭帯への負担増から怪我を誘発してしまいます。
最近は筋力トレーニングの重要性が指摘されています。パワーアップやスポーツ障害の予防には筋量の増大が効果的で、適切な筋トレとその後のタンパク質(アミノ酸)摂取が有効とされています。しかし、タンパク質の過剰摂取(体重1kg当たり2g以上)は体脂肪の蓄積をまねき、一方体重当たり1g以下ですとパフォーマンスの低下をまねくとされています。

筋グリコーゲンの蓄積には運動終了後30分以内の糖質摂取、筋量増大には運動終了後30分以内のタンパク質摂取の重要性が指摘されています。つまり、運動と食事のタイミングが重要で、練習後30分以内に栄養摂取が可能な環境を整えること(練習直後は「補食」で補いその後食事を摂取することなどの工夫)が必要なのです。
数十万年にわたる進化のなかで、人類は長時間の狩猟採集活動を続けるために糖質からも脂肪を合成することができるようになりました(皮肉なことにこの「非常用燃料の蓄積」という生存戦略が現代社会に蔓延する肥満をまねいています・・)。一方体脂肪(特に内臓脂肪)は、「遊離脂肪酸」というかたちでゆっくりとした持久的運動を支えてもいます。そこそこのスピードが必要とされる競技(市民マラソンなど)では「筋グリコーゲン」と「遊離脂肪酸」の両者が活躍するようなトレーニング内容と栄養摂取への取り組みが重要なのです。

”低糖質ダイエット”と健康

最近の「お父さんのメタボ対策」で話題の ”低糖質ダイエット” ですが、確かに過剰な糖質(炭水化物は糖質と繊維質を含みます)摂取は、人類の宿命としての「脂肪蓄積」を進めます。これは数百年前の農業革命以降に起きた遺伝子的変化でもあり、20万年前から狩猟採集生活をしていた人類の宿命でもあります。
人類の大型化した脳は、一日のエネルギーの20%の糖質を必要とします(β酸化という体脂肪からのエネルギールートは使えません)。そこで狩猟採集生活をしていたころから、必要で貴重な糖質をすべて脳のために回して、移動のためのエネルギー源をとりあえず蓄積した脂肪から「遊離脂肪酸」という形で利用する(ゆっくりとした移動で使われる)ようになりました。チンパンジーなどは数%の体脂肪率ですが人類は20%以上の「非常用脂肪」を蓄積しています。このように脂肪組織から活動エネルギーを作り出せるようになったので、人類は ”のべつまくなしに食べ続ける” という行為から解放されましたが、身体運動をせずに精神的ストレスが増加すると「脂肪の過剰蓄積」をはじめるという厄介な宿命も背負ってしまいました。
ですから肥満傾向の強いお父さんには確かに ”低糖質ダイエット” が一定程度効果的なのですが、逆に現代の日本女性では「過剰な痩せ志向」の影響で、健康上必要なエネルギーに対して摂取エネルギーが平均300Kcal少ないという統計結果が示されています。いわゆる「痩せすぎ女性(実は高齢者も低栄養状態と言われています)」は、極度の糖質制限をしていますので、食事から必要なエネルギーが得られず、自分の身体の筋肉や赤血球、免疫細胞まで分解してエネルギー不足を補い、かつ脳の「低栄養状態(低血糖性昏睡を誘発する)」を進めてしまうといわれています。
また、タンパク質(P)と脂質(F)と糖質(C)から構成される食事内容のPFCバランスの崩れも健康上は問題です。タンパク質15%と脂質25%、糖質60%という「和食バランス」が推奨されているのですが、低糖質ダイエットは相対的にタンパク質と脂肪の割合が増加した「低カロリーファーストフード化」を進めてしまうのです。
「運動」「栄養」「休養」のバランスではなく、「運動抜き」の ”自己流の低糖質ダイエット” を続けていると様々な健康上の問題を引き起こしてしまい、スポーツをやるどころの問題ではなくなってしまいます。
ではスポーツマンのための栄養摂取ではどういった注意が必要なのでしょうか(続く)