2019年 11月 の投稿一覧

義足は有利なのか?

 レーム選手の障がいクラスは膝下切断(T64)、日本の山本篤選手は障がいの程度が上の膝上切断(T63)で6m62の記録を持っています。両者の記録の差は1m86cm、ただT64クラスの歴代2位とも1m以上の差がありレーム選手の記録が突出していることを示しています。400mのピストリウス選手は膝下切断クラスで45秒07の世界記録を持ってますが、2016年リオ・パラリンピック400mでは上位3名がいずれも46秒台とレベルアップしてきています。
 外部からエネルギーを得ているわけではないので、義足を撓ませてエネルギーを蓄えるのは自身の体重と筋力とスキルとの「身体の使い方」でなされます。この点で「助力」とはいえないのですが「運動様式」が異なるか否かが論議の分かれるところだと思います。 車いす(Wheel Chair)でのフルマラソンは、障がいの軽いクラスではハインツ選手の1時間20分14秒が世界記録です。これは運動様式が全く異なりますので有利不利はありません。 自転車競技で小型モーターを隠して着装する「メカニカル・ドーピング」も「外部動力」使用の不正を規制したものです。
 また、走幅跳は「義足側」で踏切ますが、走高跳では「健足側」で日本の鈴木徹選手が2m00をクリアしています。これは助走スピードの変換方向に関係しているのかもしれませんので、単純に「義足が有利」とは言えないように思います。レーム選手は、7mジャンパーだったころは「よく頑張っているね」といわれていたのに、8mを超えて五輪出場が現実味を帯びてきたころから、代表枠の人数を含め「義足は有利ではないか?」と他のコーチから問題視されるようになったとコメントしていました。
 私自身は、同様の運動様式で障がい者と健常者がともに競い合うということに特に問題はないのだと思います。 車いすテニスは「ツーバウンド・ルール」がありますが、かつて国枝慎吾選手は関東選手権に通常のルールで参加していました・・勝った相手選手は”完全アウェー状態(?)”だったとコメントしていたそうですが・・。
 2012年のロンドン五輪でピストリウス選手が400mと1600mリレーに出場して「門戸」を開きました。私たちが「人々の多様性を尊重し共生してゆく社会」を目指すとき、障がい者とともに競い合うスポーツは「人間の尊厳とは何か?」を改めて問いかけてきているように思うのです。

義足使用とパフォーマンス

 2012年のロンドン大会から障がい者スポーツやパラリンピック関係の話題がマスコミにも多く登場するようになりました。2019年11月のドバイの世界陸上ではライブ中継も・・
 障がい者スポーツのレベルは高く、イラン・ラーマン選手の持つ重量挙パワーリフティングの世界記録310Kgは、健常者を上回っています(サポートウェアをつけない”ノー・ギア”タイプ)。陸上・走幅跳のドイツ・レーム選手の8m48も、世界選手権や五輪の記録を上回る驚異的なものです。
 障がい者と健常者が同じトップクラスの競技会で競い合うようになったのは、2008年北京五輪・陸上400m出場に向けに挑戦を開始した南ア・ピストリウス選手が最初です。問題は「義足が有利に働くか否か」で、当初世界陸連は選考対象の競技会出場を認めませんでした。その後「有利に作用するとは言えない」との裁定があり、北京五輪出場は参加標準記録に0.3秒届かなかったのですが、翌年の世界選手権やロンドン五輪では準決勝にまで進出しています。
 走幅跳のレーム選手は、ロンドンパラリンピックでは7m35でしたが、2015年ドーハの障がい者世界選手権では驚異的記録の8m40を跳躍しました。レーム選手は、2012年から同じ義足を使用しているので記録向上はトレーニングの成果であるとのコメントを残しています。ドイツ選手権では5年前から、レーム選手の記録が健常者の記録を上回っているのですが「ドイツ選手権者」としては表彰されず1~3位にレーム選手を加えた4名の表彰セレモニーの後、レーム選手に別途金メダルを授与するということになっているそうで、「メダルはいらないと言ったが、ドイツ陸上連盟がそうしたいと言うんだ。障害者が健常者と同じ距離を跳べることを示して、パラスポーツを宣伝したいだけなんだけど」とのレーム選手のコメント(日経新聞:2019年9月12日より)です。(続く)