運動の直接的効果は?

 身体運動がストレス反応を低減し、結果として免疫機能の低下を防ぐことで感染症を予防することはよく知られています。コロナウィルス感染を予防するための自宅待機や人との接触の制限はいわば拘束ストレスを増大させます。ネズミはこの拘束ストレスにより容易に胃潰瘍を発症することが知られていますが、言語機能を持ち社会的に交流することを本性とするヒトにとってはさらに問題は深刻です。散歩やジョギングなどを一人で実施するよりも複数人でおしゃべりをしながら実施することが好ましいのですが感染予防の観点からは悩ましいところです。
 では、運動の直接的効果はどうなのでしょうか?
 よく知られているのは運動による免疫システム中のナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性化です。「お笑いセラピー」でもNK細胞が増加することが確認されていますが、運動により一時的にNK細胞のレベルは低下しその後上昇すること、また唾液中の分泌型免疫グロブリン(SIgA)を上昇させて上気道(喉)感染症を軽減することも指摘されています。しかし高強度運動の長時間実施(マラソンやトライアスロンなど)は、逆に免疫機能を長期的に低下させ上気道感染症の発症率が数倍に跳ね上がるということも指摘されています。まさに「過ぎたるは及ばざるがごとし」なのですが問題は何をもって「過度」と判定するかなのです。
 実はストレス反応もトレーニングと同様に「強度」「継続時間」「頻度」と「過負荷(オーバーロード)」の原理原則があるようなのです。本来ストレス反応は「緊急反応」であり、ご先祖様たちがサバンナで危険動物に遭遇した時に身を守るための防衛反応です。アドレナリンを分泌して血糖値や心拍数をあげ、手足の皮膚の血管を収縮させ血液を固まらせやすくし、脳と筋肉をフル活動させ危険を回避するための重要な反応機序です。ストレス学説を最初に提唱したセリエ先生は「ユウストレス」と「ディストレス」という概念を示し、ストレス刺激が「警告反応期」と「抵抗期」を経て生体防御機能に破たんをきたした「疲憊期」に至って病的症状の発症をまねくことを指摘しています。これはまさに「オーバートレーニング状態」と同じメカニズムのようなのです。

SNSでもご購読できます。