脳の代償性適応?

障がい者アスリートに関わって、東京大学の中澤公孝先生(リハビリテーション科学)が運動機能をつかさどる脳の機能についてfMRI(磁気共鳴機能画像法)という手法を使って興味ある知見を発表しています。
パワーリフティング競技で健常者を上回る(305Kg以上)とされるイランのラーマン選手の運動にかかわる脳の活動領域について、下肢機能の懐失が上肢機能の発達を促したとする可能性を示唆しています。これは、走幅跳のレーム選手でも、踏切脚である右足を動かすときに、健常者であれば左半球の膝を動かすのに該当する運動野の活動があるのに対し、レーム選手では右半球も活発に活動していて、更に動作感覚にかかわると考えられている右側の二次体性感覚野にも活動がみられるるデータが示されています。これはリハビリテーションのプロセスの中で義足からの感覚入力を膝でいわば「翻訳」するような機能を獲得したのではないかと考えられています。
パラ・アーチェリーのマット・スタッツマン選手は生まれつき両腕がなく、右脚で弓を支えたスタイルで世界最長距離射的でギネスブックにも登録され、健常者ランキングでも全米8位になったこともあります。マット選手は、弓を構えた時の身体の動揺がほとんどなく、脳機能も右脚を動かす際、該当部位だけではなく左半球全体が活動しているデータが示されていました(2017、NHK放映)。
脳のこのような「代償性適応」は視覚障がい者や聴覚障がい者でも指摘されていることで私たちの身体機能の無限の可能性を示唆しているようです。
東京大学の多賀巌太郎先生は、「神経系」「身体系」「環境系」の三者の不断のトップダウンとボトムアップの反復によりシステムが完成されてゆくモデルを示し、個々の要因が全体を制限をする「スレイビング」から「シナジェティック」という,システムを構成する多数の要素が相互作用により全体としての秩序を生み出す協力現象の概念を示し,環境の不確実性に対する「グローバルエントレインメント(大域的引き込み)」による「脳と環境の強結合」の可能性を指摘しています。

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