マラソン男子で日本記録を更新した大迫傑選手に関わって「フォアフット接地(着地)」が注目されています。これは、ケニア人ランナーの強さの秘密にかかわって、最大酸素摂取量という持久力の指標はほぼ同じなのに「ランニング効率(いわば燃費)」が大きく異なることとの関連から関心を集めている要因の一つです。リフトバレーという高地環境での生活、子どもの頃からの生活習慣、プロポーション(特に下腿の長さと細さ)、フォアフット接地に代表されるランニングスキル、ハングリー精神などなど様々な仮説が検討されていますが結論は得られていません。遺伝的要因から考えれば、同じケニア人(カレン人族)でも世界トップクラスの選手もいれば日本人より遅い選手もいます。このことはエチオピア人ランナーのオモロ族やジャマイカ人スプリンターでも同様です。
ですから「速い選手」は何が異なっているのかを解明することが第一義的問題です。そして、ではその違いは「生活経験やトレーニングによって改善されるのか」あるいは「遺伝的に決定されていることなので不可能なのか」という研究が必要となってきます。
「フォアフット接地」は、踵から接地する「リアフット接地」に比べて幾つかの優れた点があることが指摘されています。一つは、裸足に近い感覚で接地するので「接地衝撃が少ない」ということです。もう一つはリアフット接地では前方で接地して踵がブレーキをかけ、その減速した分を取り返そうとエネルギーを無駄遣いするので下腿の筋への負担が大きくなるのではないか、という点です。ただし、フォアフット接地といっても「つま先走り」ではなく、踵もほぼ同時に接地していますのでかつては「フラット接地」とも表現されていました。
また、ケニア人ランナーの細くて長い下腿の形状は、エネルギー消費が少なく前方に振り出しても戻ってきやすい(より重心に近い位置に接地できる)という特徴も指摘されています。
この下腿の形状だけはトレーニングでは変更しにくいのですが、意識的にランニング動作を変更することができれば改善効果は得られます。足首の屈曲や伸展による無駄な動きを制限すればふくらはぎの腓腹筋の肥大は起こりません。スタートダッシュのような足首の動きを日常的に制限することに努めれば、下腿の形状の変容が起こる可能性があるのです。ただし、瞬間的なダッシュ力は犠牲にしなくてはなりません。
実は短距離スプリントでは、スタートダッシュでは足首や膝関節の伸展が必要なのですが、30m以降の最高スピード区間では、足首や膝関節を固定して使わない方がより効率的であることが解明されてきています。(続く)