脳をまもる身体運動?

 先日TVで「あなたの大切な記憶は何ですか?」という放映がありました。アルツハーマー病改善に取り組む加齢専門研究所:Buck InstituteのCOE:ブレデセン先生の「RECODE(Reverse Cognitive Decline)法」を特集したものです(ソシム社(2018)から「アルツハイマー病 真実と終焉」(山口茜訳)が邦訳されています)。
 従来アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβというタンパク質が作られ神経細胞同士の結合が阻害されて発症するとされており、このアミロイドβの蓄積を如何に抑えるかが研究の中心とされてきたようです。またApoE4という遺伝子を保有していると発症リスクが30~50%上昇するとされています。
 ブレデセン先生は「何故アミロイドβが蓄積するのか?」について研究する中から、アミロイドβの蓄積自体は一種の「防衛反応」であり、その要因に「炎症」「栄養素とシナプスを支えるその他の分子の欠乏」「毒物への暴露」の3つの異なるプロセスがあることを指摘します。そして、それらを引き起こす 36 の要因に対して、食事や運動、睡眠や毒物暴露を避けるなどの生活習慣への取り組みによって改善可能である(屋根に空いた36個の穴をふさぐ取り組み)ことを指摘しました。
 私たちホモ・サピエンスの脳は、およそ180万年前のホモ・エレクトスの段階から大型化してきたことが指摘されています。その要因には狩猟採集活動に伴う身体活動量の劇的増加、肉の摂取と火の使用による加熱調理での腸への負担軽減と脳へのエネルギー供給の増大、狩猟採集活動での協働性とコミュニケーションの必要性、石器の精密化(見通しを持つ抽象性の発達)に伴う脳の機能的発達などが「共進性」となって作用したのではないかと考えられています(ただし火の使用についての人類学的遺跡は80万年前からとされている:人類学者のハーバード大・ランガム先生も「火の賜物~ヒトは料理で進化した(依田卓己訳)」(NTT出版:2010)の中で旧石器時代に火を使用した可能性はあるものの証拠はないと指摘する)。
 つまり私たちは、180万年にわたる直立二足歩行や狩猟活動を行う身体活動と食事摂取と睡眠、仲間との共同性や道具の製作などと密接な関係性を保ちながら脳を大型化させてきたものと考えら、それ故に私たちの身体と脳を形づくってきた「運動」「食事」「休養」の内容が十分に担保されないと様々な「不都合(肥満や糖尿病などの身体的不健康だけではなくこころと身体の統合のトラブル)」をきたすようです。ハーバード大学の進化人類学者・リーバーマン先生は「ミスマッチ病」として非感染性の47の症例を指摘しています。(つづく)

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