「直感的予測」と「ヤマをかけること」は違うのですか?

 テニスなどのボールゲームでは、相手のショットに対して「素早く」かつ「的確に」対応する必要があります。ネットプレーでは相手方のショットのコースを予測して「絶妙のタイミング」でボレーを決めます。
 このように刺激に対して素早く動くことを「反応時間」といいますが、反応時間には「不応期」という概念があって、反応の方向を決めてしまうとそれをリセットするのに時間がかかりますので、相手のショットが始まってからプレーの位置に移動する必要があるのです。しかし、あまりに早いタイミングで移動を始めてしまうと相手がショットのコースを変えてきます。有名な2014年全米オープンでの錦織Vsジョコビッチのプレーでは、ジョコビッチがショットを打つ0.37秒前(その時点でジョコビッチがショットの方向を変えることは不可)に動き出しライジングでクロスショットを打ってポイントを取るシーンがあります(NHK放映、0.37秒の駆け引き~錦織圭 知られざる予測能力、2015年放映)。
 いわゆる「ヤマをかける」という表現は「ヤマが外れる」ことも想定しての ”ギャンブル” というニュアンスがあるのですが、「直感的予測」はプレイのストーリーの中での何らかの手掛かりをもとに反応を起こしているようで、おそらく幾つかある選択肢(大脳皮質運動野と小脳外側部から構成されるいわば反応動作のレパートリー)の中からその条件下での最適な「解」を実行しているものと思われます。この時に重要な役割を果たしているのが「大脳基底核」のようで「予測した選択肢との誤差」が少ない(成功する)とドーパミン作動性の「報酬系」が作動して「強化学習」が成立するようなのです。ヤマが外れると「やっぱり違ったか・・!」という反応が起こるのですが「直感的予測」では「あと一歩足りなかった・・!」という「誤差が大きかった」という反応になるようです。
 一方、卓球のような高速で連続したラリーの中での場合にはもう少し「即時的」な対応もしているようです。オランダ自由大学のブーツマ先生は、トップクラスの卓球選手のスマッシュ実験のデータから、ボールとの接触直前にラケットの面が減速・変化しており、飛来するボールの「知覚情報」に応じて「制御」している可能性を示唆しています(佐々木正人、アフォーダンス-新しい認知の理論、岩波書店、1994年)。

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