「動き(スキル)の獲得」が先行する・・?

 トレーニングはその種目やポジションの「特異性」に合わせて実施されます。250Kmの自転車ロードレースと42.195Kmのフルマラソンとではともに高い持久力が求められますが、持久的能力の発揮の仕方が異なります(ペダリングとランニング)。ペダリングでは「アンクリング」といって真下ではなくやや前方に踏み込むテクニックが求められますのでサドルの前後位置も調整が必要です。またレース中の回転数(ケイデンス)も90~110回転/分と高いので、通常の自転車エルゴメーターの測定で用いられる60回転/分のプロトコールではレースの状況とも合致していません。筋の「3×3システム」から考えても、60回転/分では速筋線維×ハイパワー系に負担がかかってしまいます。

 一方ランニングでも踵から接地する「ヒールストライク型」では推進力にブレーキ要因が発生しますので「フラット型」や「フォアフット型」の接地が有利になりますので「ストライドをやや狭くしてピッチを上げる戦略」をとることでランニングのエネルギー効率が改善されます。最近話題の「カーボンプレート内蔵の厚底シューズ」はこの接地方法のランナーのエネルギー効率(ランニングエコノミー)が高くなることが指摘されています(丹治史弥他、カーボンファイバープレート内蔵厚底ランニングシューズによるランニングエコノミーへの影響、ランニング学研究 Vol.32、2023年)。

 つまりトレーニングのプロセスでは「効率的な動き(スキル)の獲得」が先行するのであって、効率の悪い動きのままではトレーニング効果は限定的になってしまいます。また、レースの進捗に伴いエネルギー供給系が「変容(筋疲労の進行だけではなくレース戦略の変更も含む)」してきます。この点で変容したエネルギ供給系の「モード(ハイパワーモードとミドルパワ-モードの比率など)」に応じて運動スキルを変容させて破綻をきたさない戦略が必要になってきます。これがいわゆる「適応制御」としての「巧みさ」です。「いろいろな動きができること」ではなく「状況に応じて適切な動きに切り替え」「破綻をきたさず最適な運動経過を継続する」ことが重要なのです。

 この時、脳内での「大脳基底核」の働きが重要であることが指摘されています。複数の動作の選択肢の中から最適な経過を予測して上手く実行した場合にはその「予測誤差」が少ないことが「褒賞系(ドーパミン系)」を作動させるようなのです(強化学習)。まさに「褒めてもらう」ことが直感的な判断を支えているようです。

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