東京大学の八田秀雄先生は、「乳酸いき値トレーニング」は80%強度より少し高めの運動強度で数分間実施することにより筋線維(特に遅筋線維)内の「ミトコンドリア」が増殖するというトレーニング効果を指摘します(八田英雄、乳酸を使いこなすランニング、大修館書店、2011年)。筋肉は遅筋繊維と速筋線維から構成されている(混在しているが協働で収縮する)ので、速筋線維で生ずる乳酸を遅筋繊維のミトコンドリアがエネルギーに変換するという「乳酸シャトル」という概念です。またミトコンドリアの増加とともに筋の毛細血管網も発達する(運動により血管内皮成長因子などが分泌される)ので「有酸素的能力」が向上します。
また60%強度のランニングは「基本的トレーニング」とされ、全練習量の2/3以上を占める必要性も指摘されています。そしてトレーニングの継続による有酸素的能力の改善に応じて60%強度のランニングスピードは改善されます。最初はキロ8分であったものがキロ7分になりキロ6分になっていきます。ですからキロ8分のままでトレーニングをしていては身体機能は改善されないこととなり60%強度での「心拍数トレーニング」を行うことが重要です。また日によって体調は異なりますので心拍数と「自覚的運動強度(ボルグスケール)」からその日のランニングスピード(運動強度)を決定することが重要です。
有名な立命館大学の田畑泉先生の「タバタメソッド」は最大酸素摂取量の170%強度の運動を20秒間継続し10秒間の休息を挟み6~8セット実施する短期間高強度インターバルトレーニング(HIIT)で、週2回のトレーニングで最大酸素摂取能力と最大酸素借(いわゆる無酸素的能力)の両者の改善を図るものです。カルボーネン法で計算すると心拍数が250拍/分を優に超えてしましますので経験的に6~8セットで「疲労困憊に至る」運動強度と運動方法(動作)を決定します(田畑泉、世界標準の科学的トレーニング、講談社、2022年)。この際「どのような運動方法(動作)」を選択するのかということが重要です。トレーニングには「特異性」と「一般性」という概念があり、トレーニングは個別の条件下で実施され特異的(自転車ロードレースなのかマラソンなのか)に形成されるのですが有酸素的能力は「一般的能力」として測定されます。しかし自転車競技選手は「自転車エルゴメーター」でマラソンランナーは「トレッドミル(ランニングベルト)」で測定する方が妥当性が高くなります。