「無意識のうちに対応して・・」は可能なのですか?

 トップクラスのテニス選手の試合を見ていると高速でラリーを続けていながらも何らかの「仕掛け」をしてポイントを取っているように見えます。練習では何種類かのハードで正確なラリーを延々と続けられるのですから、どこかでそれを崩すことがなければゲームは動きません。明確なのはネットインなどの「イレギュラーショット」ですが、これは適切な打点を判断してロビングや短いショットで返したりする「つなぎのショット」で対応しているようです。
 通常のラリーはフォアハンドもバックハンドも「ストレート」「ロングクロス」「ショートクロス」と「フォア逆クロス」を含めてほぼ7通りくらいの選択肢があるように思います。しかし対人状況下でゲームは進行しているのですから、相手のポジショニングと相手のショットに応じて瞬時に適切なストロークを「選択」しているようで、相手を追い込んで何本目かに「エースショット」でポイントを奪います。
 この際、「どのコースにどのショットを打つか」という「プランニング」には大脳基底核と前頭連合野が関与しており、フォアハンドのショートクロス動作を選択する「プログラミング」には動作を発現する大脳皮質運動野が、相手のショットに応じてショートクロスを補正するには小脳外側部がかかわっており、ショートクロスを打ち始めるタイミングの決定にも大脳基底核が関与していると考えられています。
 つまり前頭連合野・運動野・小脳・大脳基底核が連携して働いているようで、ナイスショットが決まった時には大脳基底核の近傍の大脳辺縁系の記憶に関わる海馬と情動に関わる扁桃体という部位も働いていて、ドーパミン作動性の「褒賞系」システムも連動します(まさに ”褒めてやらねば人は動かじ” )。
 このようにショットが成功している際には言語系は背景に隠れているのですが、ミスが続くと「あれ?」という定位=探求反射(おや-何だ反射)が発生して言語的修正が必要となります(当然現行動作系は中止する)。そして修正が成功すると再び言語系は背景に退きます。「無意識のうちに対応している」のは感覚系内での処理が可能な範囲のようなのです(シューティングゲームでしゃべりながら動作をしていては間に合わないように・・)。
 ところが状況が予想外に急変した時にはもう少し速い対応があるようです。ネットプレーに出たときに相手のショットが予想外に強かった時に「あっ、アウトする」とグリップを緩めたボレーで対応するようなケースです(本当に調節しているかどうかはわかりませんが)。これは、膝蓋腱反射などの「脊髄反射」よりももう少し長くて「意識的調整」よりは短い「長ループ反射(M2)」が背景にあるようで、感覚器のから信号が脊髄を上行して感覚野・運動野経由で下行して筋に戻ってくるようで、システムのリセット効果ではないかともいわれています(松波、1986)。
 人類の進化を考えても、私たちが現在のような豊かな言語系を獲得したのは「つい最近の出来事」なので、身体運動の実現は通常は「視覚情報」や「筋感覚情報」や「平衡感覚情報」などを手掛かりに「感覚依存性運動(運動前野が関与する)」で「無意識のうちに対応して」いるようなのです。

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