「直感」のメカニズムってあるのですか?

 先日NHK:ヒューマニエンス ”天才のひらめき” が放映され、将棋のプロ棋士の「直感」について理化学研究所の田中啓治先生がMRI(核磁気共鳴で活動状況を解析する方法)で分析した結果を紹介し、アマチュアと比較してプロ棋士では「大脳基底核」が働いているとのデータを示されました。同じく出演していたプロ棋士の田中寅彦9段は「アマチュアは ”算数” を解いている感じだが私たちは ”音楽・芸術” をやっている感じで上手くいくと ”楽しい” 」との大変印象的なコメントを残されています。
 ある局面で、プロ棋士が「いくつか浮かぶ打ち手」のうちから直感的に最善手を選ぶ際(1秒間)に働いているようで、アマチュアの方でも「詰将棋」で徹底的にトレーニングすると大脳基底核が働きだすとの田中啓治先生のデータも紹介されました。いくつかの打ち手が大脳皮質で企画されて大脳基底核にも送られ「咄嗟の(的確な?)判断」の際には大脳基底核が働いているようなのです。
 大脳基底核の機能は「ほとんどの回路を抑制して必要な回路のみを脱抑制する」とされていて、障がいを受けるとパーキンソン病やハッチンソン舞踏病が発症します。身体が本人の意志とかかわりなく勝手に震えたり動いたりするもので、ディレクターとしての大脳基底核が機能不全になりそれぞれの部位が勝手気ままに動こうとするようなものとされます。また、円盤投やハンマー投でターン中の絶妙のタイミングで投擲物をリリースすることやバッティングでの「今だ!」という絶妙のタイミングでスイングを開始することにもかかわっているようです。
 大脳基底核はいわば「旧い脳」で、オタマジャクシのようなかたちで、大脳皮質のように通常意識(言語)にのぼってくることははないのです。玉川大学の丹治順先生は、大脳基底核は、大脳皮質から多くの入力を受けていてそのほとんどを「止めて」いて、必要な時にある回路(最善の打ち手も?)のみをリリースしていると指摘します(脳と運動、共立出版、1999)。
 これは私たち人類の進化のプロセスを考えても、危機的状況下でのストレス反応に対応し、非常スイッチの扁桃体が記憶に関わる海馬の受容体にストレスホルモンを送って「適切な記憶」を形成することが知られており、この際大脳基底核は「戦うか逃げるか(Fight or Flight)」の咄嗟の行動選択に重要な役割を果たしているようなのです。
 ひるがえって考えると、スポーツの場面でも「咄嗟の動作選択」が行われているようにも思いますが、ではそのメカニズムは同じなのでしょうか?(続く)

SNSでもご購読できます。