スポーツで使う「マウスガード」って何ですか?

 アメリカンフットボールなど激しい接触を伴うスポーツ実施の場合には口の中に「マウスガード」を入れてプレイをしていて、ヘルメットからアタッチメントを介してぶら下がっていると「何コレ・・」と思ってしまいます。
 口腔内の保護の意味もありますし歯をくいしばることで「筋力発揮」に有効ともいわれ、自転車のロードレースなどでも最後の「ゴールスプリント勝負」に備えて、その直前にポケットから取り出してくわえていることもあるようです。インターネット上でも販売されていて、お湯で温めてから「喰いしばって」自分の歯型に合わせて使用することができます。
 ところが私たちが行ったウェイトリフティング選手の研究(2009)では、自分の歯の咬合状態から4ミリ以上厚いマウスガードを使用した場合にはパフォーマンスの低下を招く可能性があることが分かりました。バーベルを一気に頭上に引き上げる「スナッチ」動作では、4ミリ厚のマウスガードでは動作に関わる筋電図解析で「関節固定」の傾向が強くなったのです。これに対して歯科医が製作し調整した3ミリ厚のマウスガードではそのような傾向はみられませんでした(新潟国体マウスガードプロジェクト報告書)。動作の筋電図解析では、必要な筋活動は基本的に「拮抗性」が求められますが、曲げる筋群と伸ばす筋群が「協働性」に活動すると「関節固定」をしてしまい動作の効率的遂行を妨げてしまします。いわゆる「力んだ」状態です。
 筋の活動には動作に関連して拮抗的に働く「Phasic Factor」と動作全体を背景的に支える「Tonic Factor」があります。マウスガードを必要以上に厚くしてしまうと「噛みしめ」による「協働性収縮」を誘発してしまい、その動作に必要な「拮抗性収縮」による「動作の切り替え」を妨げるようなのです。これはウェイトトレーニングの負荷(重量)設定でもいわれていることなのですが「最大挙上重量」では必要のない筋群の参加と動作を妨げる「関節固定」を招くようです。トレーニング効果の確認のためには必要かもしれませんが、日常的に行うトレーニング課題としての「1RM(1回挙上最大重量)」は多分必要がないように思います。現実的に考えても「全力」は決して「最大のパフォーマンス」をもたらすわけではないのです。
 この点で必要以上に厚いマウスガードの使用は、「安全確保」のためには有効なのですが「パフォーマンス向上」のためには「制限因子」になっている可能性があるようなので、この研究は新潟の歯科医師会の先生方と「経験主義はダメ」「専門医にケアをお願いする」というキャンペーンになりました。
 

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