「ストライド走法」か「ピッチ走法」か?

 2022年1月16日の都道府県対抗女子駅伝で、只今注目の群馬県:不破聖衣選手が4Km区間で13人抜きの大会新記録を更新し「伸びやかなストライドで・・」と表現されました。一方2021年9月5日東京パラリンピック女子マラソン・視覚障害の部で金メダルの道下美里選手は1分間240歩という驚異のハイピッチで走ります。2000年シドニー五輪・マラソン金メダルの高橋尚子選手は1分間209歩のハイピッチ走法とされ、2004年アテネ五輪金メダルの野口みずき選手は身長と同じ150cmでストライド走法とされています。男子の谷口浩美選手は1分224歩のハイピッチ、大迫傑選手は180cmのストライドです(日本陸連HP:野口純正氏データより)。
 では「ストライド」と「ピッチ」との関係はどうなっているのでしょうか?
 疾走速度は歩幅(ストライド)と回転数(ピッチ)の掛け算で決まります。その「一歩ごとの速度の積み重ね=タイム」が歩幅と回転数のどちらによってより強く影響されているのか(相関分析)を検討すると面白いことが分かります。山崎は全日本大学駅伝に出場するレベルの選手たちの10000m走における疾走速度とピッチとストライドの関係を分析し、8800m(後半)でスピードとピッチとの相関が全員高まること(決定係数90%以上)を指摘しました。面白いことにこの現象は中間の4800mではあまり見られなかったことです。また、日本インカレ入賞レベルの選手ではストライドが選手中一番長かったにもかかわらずスピードとピッチとの相関が高く、ストライドの一番短かった他の選手ではスピードとストライドの相関の方が高かったことを報告しました(2013年)。
 つまりストライドが長いからといって単純に「ストライド走法」であるとかピッチが高いからといって単純に「ピッチ走法」であるということではなさそうなのです。これは短距離走でも同じことで、適正ストライドによる高いピッチの維持が「ベストタイム」を生みだすために重要であること、前半と中盤と後半でエネルギー供給系の変容(疲労感?)に応じてピッチとストライドの関係を変化させることが戦略として重要であることを意味します。おそらく不破聖衣選手や田中希美選手はこの「切り替え能力」が極めて高いのではないでしょうか。また、「同じストライド✕同じピッチ≒同じスピード」で走り続けることは脳の「中枢性抑制」を引き起こすことが考えられ、動作を変容させることによる「脱抑制」の発現を促して「セーチェノフの積極的休息」と同等のメカニズムを駆動しているのではないかと考えています。
 山崎はフルマラソンのトレーニングとして「ハイブリッド2時間走」を提起しました(ランナーズ 2013年4月号)。1時間たったらストライドを短くしてピッチアップしてさらに1時間走り続けるトレーニングで、グリコーゲン枯渇で出力系が低下してもストライドを短くしてキック力への負担を減らして走り続ける練習方法です。自転車の登り坂でギアチェンジをしてペダル負荷(ストライド)を軽減して回転数(ケイデンス・ピッチ)を上げて速度を維持して登りきるイメージとなります。
 どうやら走運動の原理は「ストライド」と「ピッチ」のコントロール能力の獲得がカギを握っているようなのです。

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