HIT(高強度短時間運動)って何ですか?

 最近話題のHIT(またはHIIT:高強度短時間インターバルトレーニング)は、立命館大学の田畑泉先生が提唱して有名になった「タバタ・メソッド」です(田畑先生によると本来は嬬恋高校の入澤孝一先生がスピードスケートのトレーニングとして考案されたものでその後の様々な試行錯誤の中で生まれてきたのだそうです)。
 基本は「20秒間の全力運動」+「10秒休息」を1セットで7~8セット反復(4分)するもので、わずか数分の実施で大きなトレーニング効果が得られることで注目されてきました。田畑先生によると「20秒間の全力運動」は最大の持久的能力170%相当(連続実施では50秒が限界)で、疲労困憊まで反復することにより最大酸素摂取量(有酸素系)に対しての有効なトレーニングであるとともに、7~8セット目では最大酸素借(無酸素系)が生じていることから両者に対してのトレーニング効果が認められるとの結論です。ですからこのトレーニング法は、有酸素系と無酸素系の両者が混在する1~2分間で終了するスピードスケートや水泳などの種目で有効なトレーニングであるとしています。
 この方法は短時間で効果が得られることから、運動不足が問題となる一般人(生活習慣病や話題の”基礎疾患”の回避に有効)や宇宙飛行士(重力がないため急激に筋委縮が生ずる)へのトレーニングとしても活用されています。労働安全衛生総合研究所・宇宙航空研究開発機構の松尾正明先生は、J-HIIATという運動プロトコールを実施し、週3回8週間の実施で大きなトレーニング効果(最大酸素摂取量の改善)が見られたことを報告しています。
 イギリス・ノッティンガム大学のシモンズ先生は、HITとして20秒間の全力自転車こぎ運動を10秒の休憩をはさんで3セット繰り返すプロトコールを週3回4週間(12分間)実施することでインシュリン感受性(耐糖能)の改善がみられ、さらに5週間以上継続することで最大酸素摂取量も向上する可能性を指摘しています(ただし有酸素能力の改善には個人差があり20%の方は改善効果が見られない・・逆に15%の方は劇的に改善するとのデータも報告しています)。
 大変魅力的なトレーニング法なのですが、実は「20秒間の全力運動」をどうやって実施するのかは意外と難しいのです。例えば、水泳選手が自転車エルゴメーターを用いても「運動様式」が異なるので効果は限定的かもしれませんし、全力ペダリングが行える自転車エルゴメーターは数十万円(数万円のエルゴメーターでは全力負荷が設定できない)の価格です。更に様々な運動様式での最大酸素摂取量の170%を設定するのは難しく、例えばバーピーステップやその場腿上げ(ステッピング)ではどの位になるのかは不明確です。逆説的に8セットで疲労困憊(ヘロヘロ!)に至るようにトライ&エラーを繰り返して探ってゆくことが必要かもしれませが、疲労感が出るので「手抜き」をしていては効果は限定的です。
 ところで「インターバル・トレーニング」という方法は、1952年ヘルシンキ五輪で5000m、10000m、マラソンで金メダルを獲得したザトペック選手のトレーニング法として有名です(400mを緩走:ジョギングでつないで午前50本、午後50本を2週間続ける)。現在の陸上競技のインターバルトレーニングでは、急走期は最大酸素摂取量の80%強度(頑張ればなんとかなるレベル)、緩走期は60%強度(いくらでも走り続けられるレベル)で繰り返すことが推奨されています。また信州大学の能勢博先生らが実践する「インターバル速歩(3分間の速歩と3分間の普通歩きを5セット繰り返す)」の効果も有名です。(続く)

   
  

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