つまめる皮下脂肪は減らしにくい?

 メタボリックシンドロームの改善に関わって「内臓脂肪」は適切な運動の実施と食事管理によって減少させることが可能です。実は特定健診でのメタボリックシンドローム判定の重要性はこの「改善可能性がある」ことにあり、「特定保健指導」はこの改善可能な状態で重症化を防ぐことを目的としたものです。ところが「問題点を指摘されることが分かっていて嫌」なので指導を受けない人が多くなると重症化を防ぐことが困難となり、心疾患や肝機能や腎機能の不全という改善の困難な「慢性疾患」へと移行してしまいます。
 一方皮下脂肪の方は「断熱材」として身体を守ってくれますので安定していて、飢餓状態にならない限りは減少が始まりません。冒険家が遭難などによって食糧事情が悪化してくると、最初は筋グリコーゲンや肝グリコーゲンといった糖質をエネルギーに変えます。水分さえ補給できていれば、次いで内臓脂肪や筋のたんぱく質を分解してエネルギーをつくり出します。筋肉量が減るということは「基礎代謝」も低下しますのでサバイバルには有利です。そして最後に皮下脂肪の分解が始まり「骨と皮と委縮した筋肉」だけの状態に至ります。つまり通常の状態では、皮下脂肪が優先的にエネルギーに変換される(減る)ことは考えにくいのです。
 ところが上腕の力こぶ側(二頭筋)と二の腕側(三頭筋)の部位では何となく三頭筋側の皮下脂肪が多い気がします。同じように大腿を前後に良く動かす前面の四頭筋や後面の二頭筋の部位よりは太ももの内側の内転筋側の脂肪も多いような気がします。私は「競歩」のトレーニングをよくやるのですが、腹部での腰の捻りに関わる腹斜筋の部位の脂肪だけは少ないような気がします。つまり「頻繁に動かす筋」の部分の皮下脂肪は何となく少ないようなのです。これは、減量の実験での体脂肪厚の減少が部位によって異なること(よく動かすふくらはぎや上腕部は早くお腹や腰やお尻は最後になるらしい)ということとも関連しているのかもしれません。低周波電気刺激で筋収縮を誘発して特定部位の脂肪を減少させる・・と謳うEMS刺激法はこの理屈です。ただ筋収縮を繰り返すことはあくまでも筋への刺激なので本当にその付近の皮下脂肪が選択的に減るのかは何とも言えません。ただよく動かす部位の脂肪厚はもともとは少ないので筋収縮の反復効果はあるのかもしれません。
 また女子長距離選手の過剰な痩せ志向は、体脂肪率を低下させ12.5%以下になると三大主徴(FAT)と指摘される、①利用可能エネルギー不足(摂食障害や過食)、②視床下部性無月経、③骨粗しょう症(疲労骨折を誘発)、をまねき選手生命にもかかわる重大なトラブルを引き起こします。そして、スポーツ栄養学の鈴木志保子先生が指摘するような筋肉量と体脂肪の極端な減少から「何時も寒い」と感じたり基礎代謝量も低下した「超省エネな身体」となる危険性をはらんでいます。
 つまり「皮下脂肪」は私たちの身体の健康を守る意義を持っているので安定しており、逆説的に極端に減少させることは何らかのトラブルを招く可能性があるのです。「内臓脂肪」も過剰蓄積は不健康を招くのですが、全くなくなってしまうと持続的なエネルギー供給ができなくなります。これに極端な「低糖質ダイエット」による脳の糖質不足の低血糖症が加わると意識障害まで引き起こしてしまいます。何事も「過ぎたるは及ばざるがごとし」なのです。

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