「内臓脂肪」と「皮下脂肪」の違いは?

 世界で健康上のリスクとして肥満が問題となっています。肥満の判定には身長と体重から算出される体格指数(BMI)が有名で、体重(Kg)を身長(m)の二乗で割ったもので、日本肥満学会では18以下を痩せ、25以上を肥満と定義しています。しかし、骨格筋や内臓、骨や脂肪のすべてを含むものが「体重」なので体格指数だけでは正確な判定ができません。BMIは正常範囲なのに体脂肪が多い(≒筋肉が少ない)場合は「隠れ肥満」とされ、運動習慣の欠如と相まって高血圧や糖尿病などのいわゆる「基礎疾患」のリスクが高くなります。正確に判定するには「体脂肪量」の算出が必要となります。体脂肪量は、比重を利用した「水中体重法」、上腕と肩甲骨付近の皮下脂肪厚から換算する「皮脂厚法」、手や足の2か所から弱い電流を流して抵抗値の変化から換算する「インピーダンス法」、X線を利用したコンピューター断層撮影のCT法などから推定されます。
 体脂肪は、皮膚と筋肉の間にある「皮下脂肪」と内臓の腸間膜に蓄積するメタボリックシンドロームに関係する「内臓脂肪」から構成され、さらに筋肉には「筋細胞内脂肪(IMCL)」と「筋細胞外脂肪(EMCL)」があります。
 内臓脂肪はエネルギー源としての中性脂肪を蓄積し必要に応じて活動エネルギーをつくり出します。その一方で、内臓脂肪は様々な生理活性物質を分泌します。血圧を上昇させる「アンジオテンシノーゲン」や血液を固まりやすくさせる「パイワン」、インシュリンの抵抗性を下げ高血糖を誘発する「TNFアルファ」などはいわゆる基礎疾患リスクを高める「内臓脂肪の三悪人」ともいわれています。
 「筋細胞内脂肪」と「筋細胞外脂肪」はどちらも本来あるべきところにないので「異所脂肪」と呼ばれます。ただしIMCLは運動実施によって利用されるようなのですが、EMCLは筋肉の赤ちゃんである「筋衛星細胞」が筋収縮の頻度が足りないことから脂肪細胞に変性して「霜降り」や「たるみ」に関係しているようです。
 「皮下脂肪」は安定した「断熱材」「クッション材」であり、母体保護の意味もあって女性に多く、「内臓脂肪」はエネルギー供給源として男性に多い(更年期を過ぎた女性では蓄積のリスクが高まる)といわれており過剰蓄積はいわゆる「メタボリックシンドローム」を招きます。
 我々人類につながるご先祖様である190万年前のホモ・エレクトス段階からこの「体脂肪」とのお付き合いが始まったようです。食糧事情が不安定な狩猟採集生活では、ゆっくり移動するためのエネルギー源は内臓脂肪の中性脂肪が利用され、貴重な「糖質」は大型化した脳を維持するために回されました(全エネルギーの20%ほど)。ハーバード大学の生物人類学者であるランガム先生(2010年)は、ホモ・エレクトスの段階で体毛が減少して発汗による体温調節機能により「持久狩猟」が可能となったが、一方体毛の減少はサバンナでの夜の間の「体温維持」を困難としたために「断熱材としての皮下脂肪」を獲得したのではないか(特に子供の皮下脂肪は生存に重要)と指摘しています。これは「火の利用」が調理だけではなく「暖をとる」ことにも貢献しているとの仮説です。確かに他の類人猿の体脂肪率は数%~10%程度なのに私たちは20~25%の体脂肪率なのです。そしてこの頃の「体脂肪」は健康上のリスクを高めることはなかったと考えられています。(続く)

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