テントウ虫ではなくて転倒無視・・!

 滑りやすい雪道ランニングでも転ばない雪国ランナーの転倒予防システムの存在は、ひょっとして高齢者の転倒予防のヒントになるかもしれません。
 足関節での回内-回外動作の制御では極めて短時間でバランスを修正します。これは脊髄でUターンする伸張反射によって無意識的に実行されているようです。また路面状況の視覚的情報から「あ、ここは滑りそうだ・・」という警戒システムも事前に作動しています。
 筋肉内には筋紡錘という張力センサーが存在して動作の状況を中枢に送ります。そして筋肉を収縮させるアルファ運動神経とともに筋紡錘を緊張させて感度アップさせる(時には感度ダウンも)ガンマ運動神経という二重システムが存在しています。細かい外乱に対して張力センサーの感度アップ(ガンマバイアスといいます)を行っていればわずかな変異も感知して対応することができます。また、脊髄全体の興奮性を変化させ信号の伝導速度を改善するメカニズムも持っています(H反射という手法で測定します)。つまり経験的にも滑りやすく外乱の予想される視覚的状況下では中枢性の「転倒アラートシステム」が作動しているようなのです。
 また外乱の予想される路面では、踵接地(ヒールストライク)傾向が強いほど滑りやすくなりますので、ストライドを抑えてフラット気味の接地に変容させます。また足関節だけでは対応できない場合もあるので膝関節での補正もしているようで、それでも対応しきれないような大きな外乱には上半身や腕を動かしてバランスを維持しているようです。
 卓球でイレギュラーするボールのリターン処理の実験をしたときに、全身がフリーの状況では打点を遅らせて返球しているのですが、体幹を椅子に固定した場合には急激に片足を振り上げたり反対の手を動かしてバランスをとっているという大変面白い対応がみられました。これらの対応はいずれも0.1秒以内に起こっていますので言語的に対応していては間に合わないのですが、私たちの身体システムは経験知によってさまざまな外乱への短時間での対応が可能となっているようです。
 転倒予防は「予期せぬ外乱」には簡単には対応できないのですが、視覚的情報などによってある程度予測できる状況下では「アラートシステム」が発現します。そして身体の各部位で、対応可能な姿勢制御システムを「活性化」しておくことが重要で、そのためには安定した状況下だけではなく外乱も起こる状況下での経験を積むことが重要です。登山やハイキング、クロスカントリー走や山道でのトレイルランなどの実施でいわゆる「経験知」を高める(これには小脳での動作補正機能が関与する)ことが求められているようです。

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