練習した能力は遺伝する?

 2020年放映のNHK特集「遺伝子」では「DNAスイッチ」が、現在の生活習慣を反映し、ついには「食欲」や「脂肪蓄積」のスイッチがONのままで受精により子どもに反映される・・という指摘がありましたが本当なのでしょうか?
 どうやら身体にとって不利益となる遺伝子の「メチル化」と呼ばれるDNAの二重らせんをクチャクチャにして遺伝子発現を抑制する「負の遺産」は、食事や運動などのコントロールで遺伝子レベルでも改善されるようです。オリーブオイルやナッツなどの「地中海食」によって脂肪生成や肥満や炎症の抑制に関わる遺伝子が変化するとのスペイン・ナバーラ大学のマルチネズ教授の研究が紹介されています(別の研究ではイギリス人では効果が低かったとの報告もあります)。デンマークでは「精子トレーニング」というタイトルで、男性が有酸素トレーニングを実施してメタボリックシンドローム傾向を改善して受精に備える運動プログラムが実施されており、運動実施にともなう脳由来神経成長因子(BDNGF)が記憶力のアップに関わっていることなども指摘されています。
 運動能力にかかわる遺伝子はいくつがが特定されています。筋線維の収縮特性に関連したACTN3遺伝子は有名ですが、他にも血管収縮に関与するACE遺伝子やエネルギー生産の主役ミトコンドリアの増加に関わるPGC-1αを発現する遺伝子などの運動能力遺伝子(持久的運動が不得意な人はこの遺伝子の増加傾向が低いので運動が楽しくない・・走るのなんか大嫌い!となる)の検査はビジネスレベルで広く利用(1万円程度)されています。
 ただ、これらの遺伝子は潜在的なものであり、またミトコンドリアのDNAは母系遺伝で男性のミトコンドリアDNAは受精の際に排除されます。つまりお母さんの持久的能力は子どもに伝わる可能性があるのですがお父さんのミトコンドリア増殖遺伝子は伝わらないようなのです。また、遺伝的には獲得していてもそれなりのトレーニングを行わなければ、瞬発的能力も持久的能力も開花することはなく「遺伝型(先天的)」と「表現型(後天的)」ともいう関係になります。
 トレーニングによって改善された能力は遺伝するのかどうかということでこの「DNAスイッチ」が注目されているのですが、アスリートのDNAスイッチはおそらく健康や運動に好ましい方向に調整されているので何とも言えません。実はゲノム編集により能力や性質を変えようとする「デザイナーベビー」や「遺伝子ドーピング」という可能性も現実のものとなってくるのかもしれないのです。

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