“マルチランナー”ってあり?

 10月8日の男子10000mで、ウガンダのチェプテゲイ選手が26分11秒00秒の驚異的な世界新をマークし8月にマークした5000m(12分35秒36)と合わせてダブルタイトルホルダーとなりました。それまではエチオピアのベケレ選手が、2004年と2005年に両種目(12分37秒35と26分17秒53)で世界記録を保持しており15年ぶりの出来事です。ただ、レースには5000mまでペースメーカーがついており、一発勝負で駆け引きもある世界選手権やオリンピックとは異なります。マラソンでは、ナイキやイネオスのプロジェクトが「2時間の壁」への挑戦を続け、世界記録(2時間1分39秒)保持者のケニアのキプチョゲイ選手が、X陣形のサポートランナーとレーザーでのペース誘導などに支えられ、非公認ながら2時間0分25秒と1時間59分40秒をマークしました。ちなみにキプチョゲイ選手の五輪2連覇へのライバルはエチオピアのベケレ選手です。
 ベケレ選手は5000mから42.195Kmのフルマラソン(2時間1分41秒)までトップクラスの記録を出しておりまさに「マルチランナー」の代表格です。2008年に人類初の2時間4分の壁を破ったエチオピアのゲブレセラシエ選手もトラック出身のマルチランナーでした。古くは、1952年のヘルシンキ五輪で、有名な「インターバルトレーニング」の創始者であるチェコのザトペック選手が5000m、10000m、フルマラソンを制しています。
 5000mからその8倍以上(時間では9.7倍)ある42.195Kmでもトップクラスの成績を収める選手の特性を運動生理学的に説明することは難しい問題です。ボルト選手のような100m・200mタイプのマルチランナーと、ジョンソン選手のような200m・400mタイプのマルチランナーについては速筋線維と遅筋線維の筋組成やハイパワー系やミドルパワー系というエネルギー供給系の比率などから推察はできるのですが、長距離種目ではプロポーションの問題やランニングスキルなどが関与する「ランニング効率(エコノミー)」の問題が絡んでくるので複雑なのです。また持久力の指標とされる「最大酸素摂取量」は5000mと相関が高いのですが血中乳酸濃度4Mmol/dl時の疾走速度(LT)はフルマラソンと相関が高いとされています。では「マルチランナー」ではどうなのかというとまだまだデータがそろっていないのでよくわからない部分が多いのです。
 ただマラソンで好記録が出せるようになるためのトレーニングはかなりの時間と経験が必要なようで、トラックランナーから転身した30歳代以降に好成績を残しているようです。(続く)


 

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