厚底シューズ規制基準は?

 1月31日、世界陸連はいわゆる「厚底シューズ」に関する規制基準を示しました。①ソールの厚さは40mm以内、②カーボンプレートは1枚のみ、③東京五輪での使用は、4月までに市販されているもの、そして④「試作品」は使用禁止です。実は④の規制基準が実質的には最も厳しく、選手に合わせてアレンジすることができなくなります。これは「公平性」の点からも、通常は使えない高額な素材を使用して記録を伸ばしメーカーの宣伝塔となることを規制したもので、この点はもっと早くから規制すべきだったと思います。
 N社の厚底シューズは2017年から販売されています。ただソールが厚いだけではなく、反発力のあるカーボンプレートをサンドイッチしていて、柔らかいソールのクッション部分がつぶれるとカーボンプレートが撓んで元に戻る反発力を推進力に利用できる、との理論です。ですから薄くて硬い靴底ではプレートが撓まないので踵側のプレート下が柔らかく厚くなっていないと反発力がうまく利用できない構造です。このことから「踵着地」ではなく「フォアフットかフラット着地」でないとこの撓み現象は起こりにくいと考えられます。また、高速で走った方が4%ほど効率が良くなるとのデータ(モデル名の由来)も示されています。またN社はこのシューズ以外にもカーボンプレートのない厚底シューズを「エキデンレース用」として市販もしています。
 ただ、使用したトップ選手の感想のほとんどは「クュション性が良く足の疲労感が少ない」というもので「推進力が得られる」というものはないようです。また、カーボンプレートの反発力や靴底の柔らかさと体重やレースでの疾走速度、ランニングスキルとの相性もあるようで、誰でもがハーフマラソンやフルマラソンが速く走れるというわけではないと思われます。この推進力に貢献するかどうかは、工学的には「インピーダンスマッチング」と表現されます。例えば水泳のキックやプルの動作が速いからといって必ずしも推進力に貢献しないことと同じです。また、ハーフマラソンやフルマラソンではレースの前半・中半と後半ではランニングスキルが変容(通常ハイピッチモードに変わる)しますので最後まで同じようにランニング効率に貢献できるかどうかはわかりません(通常の実験では限定された時間のみ分析)。
 長時間に及ぶレース中のランナーとシューズの関係は大変に複雑なのだと思います。ちなみに規制対象は「陸連登録者」のみで一般ランナーの方は対象外です。マラソン30Km地点で「シューズ履き替え」という離れ業も可能です。

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