ジャンプ力遺伝子?

 2010年NHK放映の「金メダル遺伝子を探せ」では、速筋線維の機能に関係するACRN3遺伝子だけではなく、他の様々な遺伝子が示されました(善家賢、金メダル遺伝子を探せ!、角川書店、2010年)。そのなかで、東京健康長寿医療センターの田中雅嗣研究部長が、日本屈指のスプリンター・朝原宣治氏の遺伝子解析を行い、10の遺伝子の11の発現型からそれぞれを0・1・2点で評価して22点満点で評価する方法を紹介していました。それぞれの遺伝子(多型)は「1回最大挙上重量」「ピークトルク」「徐脂肪体重(筋量:3種)」「筋再生(2種)」「腕の筋量」「ジャンプ力」「筋力」そして「ACTN3=スプリント能力」から評価され、22点満点で18点とやはり天性のスプリンターであったことが証明されました。また、筋の再生だけではなく筋の萎縮や筋力低下を防ぐ遺伝子スコアも高く、筋量にかかわる遺伝子からも36歳までオリンピック選手を継続できた背景がうかがえます。
 ところが、走幅跳8m13の記録を持つ朝原選手のジャンプ力に関連するとされる遺伝子(NR3C1)が0点という評価が示されました。朝原選手は「僕は垂直跳は全然ダメなんです。そういうジャンプ力のことかもしれませんね」とのコメントでした。
 じつはジャンプには垂直跳や立幅跳のように膝の屈曲伸展を最大限に使う「ゼローMax.」タイプのものと走幅跳やカンガルージャンプのように弾性エネルギーの再利用というリバウンドジャンプの2種類があります。秒速11mの助走スピードから「膝の屈曲伸展」を使っていては潰れてしまって跳躍することができないのです。
 ですから運動関連遺伝子だけでは、機能評価はできても、実際の表現型では異なる結果をもたらすようなのです。
 ケニアのカレンジン族長距離ランナーの遺伝子構成は、ジャマイカのスプリンターと同様の瞬発型の筋遺伝子をもっていてACTN3遺伝子のTT(XX)型が長距離に有利との定説とは異なっています。ケニア人ランナーの持久的能力の指標である「最大酸素摂取量」はそれほど高くないことも指摘されていて、運動能力はそう単純には決定されていないようなのです。

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