クロス・トレーニングって何ですか?

「自分の専門以外のトレーニングを行うこと」がクロス・トレーニングの定義です。同一のトレーニングを反復していると使用部位や動作が偏ってしまい、他の部位や動作とのアンバランスが生ずることやスポーツ障害の発生などの弊害を防ぐことができるとの理由です(横浜市スポーツ医科学センター編、スポーツトレーニングの基礎理論、西東社、2016年)。では、球技同士のような組み合わせや全く異なる動きが特徴の種目(水泳長距離などの持久的なものとボールゲームなどのスキル系のもの)の組み合わせの場合はどうなのでしょうか?
例えば、週5日間の専門的トレーニング+1日の完全休養日+1日の専門外トレーニングといった組み合わせが推奨されていますが、外国の選手はシーズン制に応じて複数の種目に取り組んでいるのに対して日本選手は1年中同じ種目のトレーニングを行っていることも指摘されています。
サッカーコーチの植田文也さんは、著書のなかで、いわゆる「1万時間の法則」や「早期専門化」の弊害を指摘し、「早期多様化:アスレチック・スキルズ・モデル(ASM)」のマルチポーツ実践の優位性を主張します。オランダのウォームハウトの研究例から、サッカーのヨハン・クライフは野球を、バスケットボールのマイケル・ジョーダンも野球を、テニスのロジャー・フェデラーはサッカーやスキーや卓球を、スプリンターのウサイン・ボルトはサッカーやクリケットを実施していたことを紹介しています。そして本人たちの「若い頃多様なスポーツ経験をしたことが現在のプレーに役立っている」とのコメントを紹介しています(植田文也、エコロジカル・アプローチ、ソルメディア、2023年)。
実は単純な動作の反復と思われがちな陸上競技のハードル競技であっても、それぞれの時点で「最適なハードリング」が存在します。400mH日本記録保持者の為末大さんは、ハードリングが上手な選手は1台毎に最適な動きをしていて「子どもの頃に河原で石から石へ跳び移る遊びなどを経験していたことが多い」との興味深いコメントを残しています(NHK、ヒューマニエンス 遊び、2023年放映)。
スポーツパフォーマンスを支える「結果の正確性」とそれを保証するための「動作の冗長性」という矛盾した課題を達成するためには長期にわたるトレーニングが必要で、まさに「全面性」と「個別性」、「漸進性」と「反復性」、「意識性」と「感覚性」という原則を「過負荷の原理」に従って継続してゆくことが必要なのだと思います。

 

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