腸内細菌叢の「多様性」って何ですか?

 最近話題の腸内細菌叢(フローラ)ですが、腸内細菌の多様性が失われると様々な不都合を引き起こすことが指摘されています。かつて、ブルガリアの長寿村の研究から牛由来の腸内細菌が関係していることが指摘され「ヨーグルト」が注目されてましたが、実はそれだけではなく長寿村の伝統的食材や料理法によって後天的な遺伝子変異(エピジェネティック)も含め総合的に長寿に貢献していることが分かってきています(日本人がブルガリアのヨーグルトだけを摂取しても効果は限定的?)。
 腸内細菌(Microbiota)は生物進化の営みの中で私たちのおなかに住み着いたもので「免疫寛容」という仕組みで自身の免疫システムからは攻撃されません。有名なビフィズス菌や乳酸菌、悪さをする大腸菌やピロリ菌、ウェルシュ菌などなどの善玉菌2割、悪玉菌1割、日和見菌7割のおよそ100兆個が、悪さをしたりビタミンや酪酸などの栄養素の合成をしたりしながら共存しています。また、子どもは出産の際にお母さんの産道で最初の「洗礼」を受けその後母乳からお母さんの腸内細菌叢をもらって成長してゆき、3歳くらいの腸内フローラが最も好ましいパターンであるといわれています。そして老化に伴ってビフィズス菌などの善玉菌が減少してゆくこともよく知られています。
 京都府立医科大学の内藤裕二先生は、日本人1800人分のAI解析データから、腸内細菌叢がA~Eの5つのタイプに分類されることを示し、「高たんぱく高脂質食」「洋風バランス食」「炭水化物偏重食」「高たんぱく高脂質+多マヨネーズ食」「和風バランス食」といった食事内容(摂南大学データによる)に対応して腸内細菌の様相が大きく異なっていることを指摘しました。そしてタイプAはタイプEと比較して糖尿病や高血圧のリスクが11~12倍高く、それまでの食習慣を反映している可能性を指摘します。そして、多様な腸内細菌叢を維持するためには、乳酸菌やビフィズス菌等の摂取に加え、腸内細菌の「エサ」となる水溶性植物繊維の摂取を推奨しています(NHK:クローズアップ現代、腸内細菌、2022年放映)。
 つまりキーワードは「腸内環境(細菌叢)の多様性」のようで、食事や運動といった生活習慣をダイレクトに反映し、腸内細菌叢の単純化は「潰瘍性大腸炎」などの重篤な障害を引き起こします。
 さらにロンドン大学のスペクター先生は「腸内細菌の殺戮兵器」としての抗生物質の存在(特定の菌に特化した「狭域抗生物質」ではなく非特異的な「広域抗生物質」の乱用)を指摘します。つまり抗生物質によって生得的な腸内細菌叢がクリアされてしまい様々な不都合を発症するリスクです(T.スペクター、ダイエットの科学、白楊社、2017年)。じつは病原性大腸菌による重症の下痢は、病原性大腸菌が他の腸内細菌を「追い出し」て縄張りを独占するための戦略ではないかというジョークがある位なのです。 

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