”歌舞音曲のたぐい” で・・

 身体運動と音楽との関係は、おそらく数万年以上前のホモ・サピエンスの人類史にまでさかのぼれるようです。オックスフォード大学のダンバー博士は、ヨーロッパの洞窟遺跡での原始的な宗教的祭祀で、壁画の前でシャーマンが踊り、骨のフルートのような楽器を奏でて参加者が踊りを始めるというシナリオを提起しています。ホモ・サピエンスレベルではこのような「笛」を使っていたことは指摘されていて、同時代にヨーロッパで共生していたネアンデルタール人では原始的な宗教行為は存在するものの楽器のような「シンボル的な道具(貝殻のペンダントは残っていたようです)」は発見されていないようです。(NHKスペシャル「人類誕生」制作班、大逆転!奇跡の人類史、NHK出版、2018年)
 ホモ・サピエンスでの大人数集団レベルでの社会共同性は、ネアンデルタール人の家族レベルの集団性を越えて石器の進化や道具の革新をもたらしたことはよく知られています。「大人数レベルでの集団性」を維持するためには原始的な宗教性が必要であり、かつシンボルの異なる宗教的集団間での「争い」や「調停」と「和解」をもたらすためには「祭祀」が必要であったようです。1万2千年前の有名なトルコのギュベックリ・テぺ遺跡では、シンボルの異なる集団がそれぞれの象徴の場を作るとともに、どうやら御馳走のパンやビールなどを飲食しながら交流(調停と和解)をしていたことが指摘されています。(NHKスペシャル取材班、ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか、角川書店、2012年)
 祭祀に関わり「踊りの起源」と解釈される身体運動様式の定義はなかなか難しく、多くの解釈が存在するようです。総合地球環境科学研究所の前京都大学総長・山極壽一先生(ゴリラ博士として有名)は、人類の進化のプロセスで身体の同調・共鳴を通じて心を一つにすることがダンスや音楽によって高められ、一体となって危険や恐怖を乗り越えていた可能性を指摘します。また、東京大学の岡ノ谷一夫先生は、人類の直立二足歩行や走行といった不安定な自由度が踊りという行為を可能にした(逆説的に?)のではないかとし、社会共同体を支えた ”まねっこ” の「ミラーニューロン」が関与している可能性を指摘します。さらにサバンナでの集団での行為(踊り)によって危険動物を遠ざけ安全を確保していたのではないか、そして言葉の発生にも関与していたのではないかと推論しています。(NHK、ヒューマニエンス:ダンス、2022年放映)
 つまり ”歌舞音曲のたぐい” は人類の進化を支える大変に重要な要因であったようで、 ”思わず踊りだしてしまう” ことは決して不謹慎なことではないようなのです。 

SNSでもご購読できます。