ランニングやウォーミングアップを行いながらヘッドホンから音楽を聴いているシーンをよく見かけますし、それぞれに ”テーマ曲” もあるようです。フィギュアスケートでは、演技と音楽とのハーモニーが大変印象的で、演技後半の疲労感のある局面でのダイナミックな演技とマッチした曲想は観客をも巻き込んでしまいます。
ところが音楽とパフォーマンスとの関係についてのある程度客観的な「効用」を探るということになると途端に困難なテーマとなります。
リズミカルに反復される運動実施の場合には、電子メトロノームなどを用いてリズムやテンポといった時間的要素をサポートしてパフォーマンスとの関係を検討することができます。ところが「音楽」として、メロディーや歌詞(リリック)が加わってくると個人やチームの体験や感情という側面が加わってくるためいわゆる「情動反応」が関与してきます。
「情動反応」は、「大脳辺縁系」が関与しており、意欲に関わる「帯状回皮質」やストレス反応での非常事態スイッチ「扁桃体」、記憶に関与する「海馬」などから構成されており、「緊急事態」では扁桃体が視床下部に働きかけて副腎皮質からストレスホルモンを分泌して血糖値や血圧・心拍数を上昇させ、「幸福感」を感じているときは帯状回が働いて扁桃体の活動を抑制していると考えられています。(工藤佳久、脳神経科学~やっぱり脳はとてもすごいのだ、羊土社、2019年)
疲労感や倦怠感を感じているときに「行進曲」を聞くと交感神経系が活性化して、肝臓からのグリコーゲン(糖)放出を促しエネルギー供給系を活性化しパフォーマンスを高めることも昔からよく指摘されています。数多く存在する「行進曲」や「戦いの踊り」は、身体活動を通しての「闘う行為」への一体感を醸成して攻撃性に関わる血中テストステロン値を高めると考えられています(武器を所持するとテストステロン値が上昇するとの研究報告もある)。
ところが人間のテストステロンは、単に攻撃性に関係しているだけではなく ”他人のために一肌脱ぐ” といった ”気前の良さ” や ”不公正さへの懲罰” にも関連して極めて複雑な振る舞いをしていることが報告されています。(NHKBS1:テストステロンの真実、2019年放映)
ラグビー・ニュージーランドのオールブラックスの有名な ”ハカ” は、自チームと観客を奮い立たせるだけではなく相手への「敬意」や「感謝」を含むものと解釈されていることから多くのファンに受け入れられているようです。伝統ある音楽や踊りといった要素であっても、パフォーマンスとどう関わりどんな「効用」を持つのかは大変に複雑なように思いますす。おそらく現在のウクライナ代表のスポーツ選手たちは、母国の歌を聴くことによって自分のプレイを母国の人々への励ましとして示したいという高い意識があり、その意味で極めて高いパフォーマンスを実現しているのではないかと思うのです。(つづく)