最近話題の「スマートウォッチ」は様々な機能を搭載していることが「売り」ですが、問題は測定される機能の「意味」と「精度」です。
初期の運動中の心拍数測定は医療用のホルター心電図のように携帯用記録装置を着装して運動終了後に回収して測定するものでした。そこで、心電図ではなく心臓の電気的活動のピーク(R波といいます)のみを記録してカウントするテレメーターという測定機器が開発され、無線受信機で記録する方法が導入されてきましたが、まだまだ我々運動生理学の研究者が実験現場で使う程度のものでした。
ところが1980年代になると、医療機器メーカーなどが心拍数を記録する胸部ベルトからの無線信号を「腕時計型」のレシーバーで記録するシステムを開発し、価格も数万円に設定されたことから持久系種目のアスリートに一気に普及しました。
これはスポーツ科学の研究が進み、「効果的なトレーニング強度」の推定値として血中乳酸濃度と心拍数とが大きな意味を持っていることが明らかになってきたからです。特にランニングのトレーニング効果は「60%強度(乳酸濃度があまり上昇しないレベル)」と「80%強度(ここから乳酸濃度が急速に上昇するレベル)」の設定の重要性が指摘されてきました。ところが血中乳酸の測定には耳朶や指先からの微量の採血が必要で、その手間と経費との関係から日常のトレーニングでは「心拍数で推定」で対応できないのかとのことで一気に普及してきた経緯があります。
ところが運動時の心拍応答は個別性(身長や体重・年齢や性別・持久的能力のレベルなど)が大きいので「市販するためのガイドライン」が必要となります。
通常の運動時心拍測定システムでは「カルボーネン法」といって、年齢から推定される最高心拍数(HRmax)と安静時心拍数(HRrest)との差を100%と推定して、性別・年齢・体重等のデータを読み取って表示します。運動強度が推定されると60%強度以下では体脂肪からの「遊離脂肪酸」が消費され80%強度を超えると糖質であるグリコーゲンが消費されるとして「この運動でのあなたの脂肪燃焼率は◎〇%です」というような表示がなされるのもこの原理です。
最近のシステムは、GPS受信システムや加速度センサーを内蔵しており「疾走速度」「ピッチ」「ストライド」なども表示され、ランニングデータがインターネット上の地図に表示されるようにもなりました。ただ「精度」の問題はなかなか複雑で、GPSも自動運転で使われる日本製「みちびき」の精度は高いのですが通常のGPSではいまいちです(私は ”日本海の上” を走っていたことがありました!)。
最も大きな問題は胸部からの電気信号ではなく手首の血管から光学的に読み取る心拍測定システムで、手首にしっかりと固定しないと動いてデータが不安定になります(安静時ではあまり問題はないのですが激しい運動時には誤差が大きい)。
安静時の心拍数の1拍ごとの変動(心拍揺らぎといい自律神経系の指標とされます)を解析するシステムもあります。心拍間隔が遅くなる場合は副交感神経系が、心拍間隔が速くなる場合は交感神経系が有意であるとの仮説から「ストレスの指標」として表示されるものです。
加速度計が内蔵されているので日常生活での歩数や運動強度などの活動性や「寝相の悪さ(睡眠中にも装着していれば)」も表示されます。「1週間を振り返る」といった使い方もできると思います。ただ、それ以外の「血圧」や「血中酸素濃度」などの指標は「手首からのデータだけで本当に正確なの?」となってしまい何ともいえません。
