テニスのネットプレーで、相手の厳しいバッククロスにすばやく対応してボレーを決める・・夢のようなプレーですが実際にはなかなかうまくいきません。
かつて錦織圭選手がジョコビッチ選手の強烈な逆クロスショットに対して、インパクト直前に絶妙のタイミングで反応動作を開始(0.37秒前)している放映がありました。
「やはり一流プレーヤーは反応が速い!」と思いがちですが、単純な光刺激に対して反応を開始する「反応時間(Reaction Time)」は、0.3秒程度であまり個人差はありません。ところが陸上競技や水泳競技でのピストル音からスタートまでのリアクションタイムは結構個人差があります。何故なのでしょうか?
これは「反応時間」の構造(下図)に関連しています。光刺激が提示されると、網膜から視覚野へ信号が送られます。身体のほうは「跳びあがる準備」はできていますので、視覚野からのシグナルに対応して運動野から「Goサイン」が脊髄を経由して該当筋に送られ筋収縮がおこります(PMT)。ところが筋が収縮をはじめても関節をまたいで動作が始まるまで(MT)には遅れがあります。「あ、分かってるけど身体が動かない!」状態で、特に体重の重い方や筋力の弱い方では多少反応時間が遅くなります。ところが「ヤマを張る(タイミングを「予測」する)」と反応時間は速くなります。が、陸上競技ではピストル音の0.1秒以内にスターティングブロックに大きな力をかけると、たとえ動いていなくともセンサーが反応して「フライング」で失格となります。
野球やテニスでは、投手のボールリリースやラケットのインパクト以前に適切な「予測」が可能です。これは「相手方ディスプレイ状況」から適切な情報を得て、錦織選手のように絶妙のタイミング(「不応期」といい動作を修正できない時間帯・・あまり早めに動くと相手がショットを変えてくる)で反応します。まさに「経験の智慧」です。相手のスタンスやラケットの向き、それまでの確率など様々な状況を瞬時に分析して対応しているのです。卓球女子の伊藤美誠選手の「速攻ミマパンチ!」はこの事前情報を提供しない高度なテクニックです(フェイントでいう”ノーフェイク”と同じ)。
つまり「反応が遅い」のではなく「経験知が足りない」のです。また、トレーニングで動作を速くする(スイング速度やステップ速度のパワーアップ)ことで、反応をおこしてから動作完了までの「移動時間(mvT)」を短縮して全体としての「反応動作時間(Total Reaction Time)」を速くすることができます。