
駅伝シーズンですが、TV解説者の方が「〇◎選手走りを切り替えましたね・・」とか「前半速く入りすぎたので後半が心配です・・」といったコメントが良く放映されます。確かに「上り坂」と「下り坂」では走り方も違うだろうし、前半速く入りすぎると何となくオーバーペースかな?とも感じてしまいます。しかし、月1000Km以上走り、様々な条件下で練習を繰り返しているランナーがそう簡単に「ペースを間違える」とは考られません。特に監督車が後ろについてその都度マイクで指示を出している状況(ルール上は「助力」といって違反なのですが・・箱根駅伝の伝統?・・)でペースを間違えるとは考えにくいのです。
ただ10000mのベスト記録のわりに20Kmを超える区間でのパフォーマンスが異なることはよくあります。持久力の指標である「最大酸素摂取量(体重1Kg当たり1分間に酸素をどのくらい体内に取り込める能力)」は年間あまり変動しないといわれていますがレースでのパフォーマンスは大きく変動します。そこで「コンディションが良くなかったのでは?」とのコメントが登場しますが本当にそうなのでしょうか?
実は、運動生理学的には20Kmや42Kmのパフォーマンスは「最大酸素摂取量」よりも「血中乳酸濃度(乳酸性作業閾値)」との関連が高いことも指摘されています。
運動時のエネルギー生産系には3種類あることはよく知られています。細胞内のミトコンドリアに関連する「有酸素系」はいわば「ソーラーパネル」に、筋グリコーゲンを分解する「解糖系」は「ガソリンエンジン」に、燐酸を瞬間的に利用する「クレアチン燐酸系」は「バッテリー」に例えられ、いわば「ハイブリッドエンジン」となっています。ソーラーパネルの上限である最大酸素摂取量を越えた速度で運動するためにはガソリンエンジンが必要となり、筋グリコーゲンを分解する「乳酸」が生じます。ソーラーパネルだけで走っていてはレースになりませんのでガソリンエンジンも「残量メーター」と睨めっこをしながら動員することとなります。そこでこの「乳酸性作業閾値」が注目されるのです。
そして、この3つのエネルギー供給系の比率はレースの進捗状況により変動してきます。有酸素系は定常状態で頭打ちですが解糖系は減少してきますので「ランニング効率」を変える必要が出てきます。この際にクレアチンリン酸系と連動した変動する「ハイブリッドエンジン」が走り方(ドライビングテクニック)を切り替えている本命のようなのです。