_加齢性筋萎縮症(サルコペニア)や虚弱(フレイル)が懸念される高齢の方や普段あまり運動をやらない方を対象にした「スロートレーニング」という方法が提唱されています。
_「ダイナミック」に身体を動かすと関節や筋肉に負担がかかり怪我を誘発するリスクが高いので「スロー」な動きでトレーニングする方が安全だと考えられているようですが「トレーニング効果」はどうなのでしょうか?
_実は「スロートレーニング」は動作がゆっくりなだけではありません。例えば「脚スクワット」の実施では屈曲後の伸展時には膝を伸ばしきらずに筋収縮を持続することが求められます(横浜市スポーツ医科学センター編:スポーツトレーニングの基礎理論、西東社、2016年)。
_筋収縮を持続していると筋収縮で筋内血管が圧迫されて酸素供給が制限されます。そうすると筋内では「有酸素機構」が制限されるので「無酸素性機構(いわゆる解糖系)」からのエネルギーが主要になります。なのでゆっくりとした動作にも関わらず無酸素性機構が主要になるので解糖系での筋グリコーゲン分解により「血中乳酸値」が上昇します。血中乳酸値が上昇するということは「高強度運動」の実施と類似した反応として「成長ホルモン」が分泌されます。そしてこの回復過程でタンパク質摂取による「アミノ酸」が取り込まれていると筋再生を促します。
_信州大学の能勢博先生の有名な「インターバル速歩」でも、終了後に牛乳を摂取することで筋再生に違いがみられることも報告されています(ウォーキングの科学、講談社、2019年)。
_例えば脚スクワットであればゆっくりと10回実施して7回目あたりで「きつい」と感じていれば血中乳酸濃度が上がっていることとなります。実は1960年代にヘッティンガー先生が提唱した動きをともなわない「アイソメトリックトレーニング(一定の姿勢で数十秒継続)」の効果も、力発揮による筋収縮は持続していますので「血流阻止」によって生じていると考えると納得ができます。
_ただしダイナミックなスポーツ動作とは異なる速度や動作で実施されていることからトレーニングプロセスとしては「再トレーニング」の必要性も指摘されています。ただ「既に動作システムが獲得・完成」されているアスリートやマスターズなどのベテラン選手の場合には「補強トレーニング」や「リハビリテーション」と考えて実施しても問題はないように思います。
_スポーツトレーニングとして考えれば、やはり「動作の獲得」を先行させて工夫しながら取り組んでゆくことが重要になるのだと思います。